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「太り過ぎを増やしてあれを売ろう」企業の怖いたくらみとは

世界は権力者や金持ちに都合のよい密約でできている

2018/06/05
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以前はBMI 27、今は25で「太り過ぎ」 

『世界を変えた14の密約』(ジャック・ペレッティ 著 関美和 訳)
『世界を変えた14の密約』(ジャック・ペレッティ 著 関美和 訳)

 タブーとされる問題に鋭く切り込んだ『世界を変えた14の密約』の中で、著者のジャック・ペレッティは、肥満の増加原因はまさにこの「ヘルシーな食品」とダイエットにあることをひも解いていく。今最も旬のジャーナリストであるペレッティはまた、BBCのテレビプロデューサーとして「肥満とダイエット」に関するドキュメンタリーシリーズを制作し、高い評価を受けている。

 1945年、NYにあるメトロポリタン生命保険会社で働いていたルイ・ダブリンという統計担当者が、契約者の体重の基準を切り下げて、「太り過ぎ」に分類していた人を「肥満」に分類すれば高い保険料を支払わすことができることに気がついた。それを裏付けるために創り出した指標がBMIだ。一夜にして肥満や太り過ぎに分類されてしまった人たちはダイエットに走った。ここからダイエット産業と「ヘルシー食品」の一大市場が生まれる。本物の肥満が蔓延する40年も前のことだ。

 食品会社やダイエット産業にとっての巨大市場は、病的な肥満ではなく少しぽっちゃりした普通の人たちだ。その普通の人たちを「太り過ぎ」に分類してしまったのが、1997年のWHOの報告書である。「太り過ぎ」を決めるBMIの基準が27から25に下げられたことで、普通の人たちがいきなり「太り過ぎ」になった。この線引きの基準になったのは、例の生命保険会社の社員が創りあげた戦前のデータだった。

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ダイエットと肥満の無間地獄

 ダイエットが実は太る体質を作ることは戦時中に政府主導で行われた栄養実験で証明されていた。実験を率いたのは高名な栄養学者のアンセル・キーズである。一定期間カロリー摂取量をぎりぎりに抑えたあとにふたたび食糧を与えると、被験者たちはあっという間にもとの体重を超えて太りはじめた。つまり、ダイエットが人を太らせることが科学で証明されたのだ。だが、ダイエットに失敗すると人は自分の責任だと思い込みまたダイエットに戻る。そうやって、リバウンドとダイエットを繰り返す人たちを金づるに、ダイエット業界は拡大し、巨万の富を築いてきた。

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 同様に、太り過ぎの基準変更をきっかけに登場したのがヘルシー食品だ。太り過ぎを気にする人たちは低脂肪、低カロリーの食品に飛びついた。しかし低脂肪食品の流行とともに、肥満は本格的に増加していった。理由は糖分だ。ニューヨーク大学のスクラファニ教授が砂糖でコーティングされたシリアルなどの加工食品をラットに与えたところ、数日もしないうちに膨れ上がった。ラットは甘い食べ物を際限なく欲しがり、食べることを止められなかった。低脂肪ヨーグルト、低脂肪マーガリン、低カロリービスケットといった、いわゆる「ヘルシーな」加工食品は、取り除いた脂肪を糖分で埋めていた。そして糖分は新たな依存症を引き起こし、消費者は食べても食べても満腹感が得られなくなっていった。