「当たり前」 谷川俊太郎
WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを宣言して1年。多くの犠牲者を出し、学校や会社が封鎖され、町中の店が休業し、東京オリンピックも延期された禍にあって、「私たちを励ます詩」をお願いした。(週刊文春WOMAN2021年春号掲載)
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「当たり前」 谷川俊太郎
この一年は一日が三百六十五回あった
どの一日も同じではないがよく似ていた
当たり前の土に根を下ろしていたからだろう
その上で飛んだり跳ねたりはしていたが
大切なものが失くなったり
思わぬところからまた出てきたりして
腹が立ったり嬉しかったりしたが
当たり前はちゃんと心の隅に控えていた
なんて幸せなんだろうと痛感することがある
突然だから理由なんか気にならない
だが痛感は長続きしない
熱いコーヒーを飲み終えたら普段通り
一年はお正月から始まるとは限らない
今日から始める(或いは終える)一年も
自作の時間のメリハリだから
誰かにメールで書き初めをしてもいい
いのちは派手なようで地味なもの
本気で元気で根気がある当たり前は
探さなくても一日二十四時間
良かれ悪しかれ誰の身にもついている
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