口内に腫瘍ができ、声も出にくい状態で絞り出された“願い”
ハイヤットが最後に言っておきたいことはないかと問うた。リトビネンコは口内に腫瘍ができ、声も出にくかった。それでも彼は「少しだけいいですか」と断り、発言した。
「きざな政治的声明だと思わないでほしい。ご存じのように私は先月、英国籍を取得しました。残念ながらまだ英語を習得していませんが、この国そして、人々を大変愛しています。誇りを持って英国人だと言えます。そう、彼ら(FSB)は私を殺そうとしました。私は死ぬかもしれません。
ただ、その場合でも、自由人としての死です。息子や妻も自由人です。英国は偉大な国です。亡命を受け入れてもらった後、私は息子をロンドン塔に連れていき、こう言いました。『君は自分の血の最後の一滴が落ちるまで、この国を守らなければならない。この国は私たちの人生を守ってくれるんだから。この国を守るためにあらゆることをしなければならないんだよ』と。
政治的な事件と受け止められるだろうと思っています。これは政治的ではなく犯罪です。私は犯罪者であるプーチンがG8の議長席に座り、英首相のトニー・ブレアと同じテーブルを囲んでいることに怒りを覚えます。この殺人犯と同じテーブルを囲んだことで、西側の指導者は殺人に協力したのです」
4カ月前の7月中旬、ロシアの古都サンクトペテルブルクでG8サミットが開かれ、プーチンは議長として会議を取り仕切った。
リトビネンコが残された体力を振り絞るように語った言葉は、プーチンの正体に気づかず、「悪」に協力する世界の指導者たちへの批判だった。
ハイヤットは最後に、ここでの発言が司法の場に持ち込まれる可能性があると説明し、虚偽発言だとわかった場合、罪に問われると伝えた。リトビネンコはこう返した。
「真実のみを語りました。真実以外は何も話していません。私が述べたすべての言葉について、刑事責任をとる覚悟があります」
二人の警察官の目はうるんでいた。聴取が終わったのは午後8時53分だった。