日本のブルース・ブーム
湧き上がる気持ちそのままだ。ブルースは知らなくても、彼らが歌う内容や語りには時代や国、人種を超えて共感するものがある。だからこそ、日本でもブルースがブームになった時代があった。憂歌団やウエスト・ロード・ブルース・バンドなど様々なバンドが活躍。その一つ、ブレイクダウンの近藤房之助さんとは学生時代、東京・下北沢のブルースバーでお会いしたことがある。後にアニメ『ちびまる子ちゃん』の曲「おどるポンポコリン」で一世を風靡した。その時のバンド名が『B・B・クィーンズ』。もちろん“キング・オブ・ブルース”と称されたB・B・キングのもじりだ。
この映画、実は日本でブルース・ブームが起きていた1970年代初期に撮影されている。ギリシャ人のマンスーリス監督が、軍事政権下の祖国から亡命し(これも歴史を感じる)、縁あってパリに移り住む。そこでフランス政府の新テレビネットワーク立ち上げの一環として、ブルース発祥の地、アメリカ南部でロケをすることになった。だから冒頭の字幕もフランス語だ。当初からヨーロッパの映画祭で高い評価を受けたが、舞台であるアメリカ、そして日本では、完成から半世紀以上がたってようやく公開されることになった。
ドキュメンタリーとドラマの融合
始まりはテキサスの刑務所から。黒人と白人ははっきり分けられている。刑務官はほとんど白人。受刑者はほとんど黒人。受刑者たちは作業のため農場へ歩いて向かう。監視する刑務官はみな馬に乗っている。受刑者の黒人たちは農場で鍬や斧を振るって働きながら、作業に合わせてみんなで歌う。ブルースはもともと19世紀アメリカ南部の奴隷農場で黒人たちの労働歌として歌われたのがルーツだという。
「ダラー・メアリーは言った、ダラー・ボブに。『私がほしいドレスは1ヤードで1ドル』。ダラー・ボブは返事した。『黙っていろ。いつかは手に入る、いつかは』」
これも男女とカネの話だ。殺人罪ですでに25年服役しているという受刑者が語る。
「昔からブルースが好きだから、しっくりくる。自然な気持ちをのせて歌うんだ」