もう一つ、この映画の特筆すべき特徴がある。ドキュメンタリーだけではなく、フィクションのドラマが織り交ぜられていることだ。ニューヨークのハーレムに暮らす若い黒人夫婦の物語。夫は強盗で服役後、妻と結婚したが、前科が壁になって仕事が見つからない。働いている妻に金をせびっては街をうろつく。そんな夫に愛想を尽かした妻はミュージシャンの元に……と、まさにブルースの世界。それがドキュメンタリー場面の合間合間に、境界をあえてはっきりさせずに織り込まれている。これがブルースというなじみの薄い題材を親しみやすくする上で大きな効果を上げている。
ブルースを聴くと自然に腰が動く
さらにこの映画、途中までほぼ黒人しか出てこない。フィクションの場面もそうだし、ドキュメンタリー部分で歌うのも黒人、聴いているのも黒人。ようやく終盤近くに御大B・B・キングが登場。「ジャスト・ア・リトル・ビット・オブ・ラヴ」を熱演する。その時、客席にいるのはほぼ白人だ。ノリノリで立ち上がり拍手を送っている。黒人音楽だったブルースが次第に白人の若者たちに受け入れられていったことを象徴する場面だろう。キングは証言する。
「気づいたんだ。教会で霊歌を歌うとみんなに感謝される。でもブルースを歌うと後でいい額のチップになる。ある時、農園で働いた後、街角で歌った。すると一晩でずっと稼げたんだ。1週間農園で働くよりね」
昔、高校時代の友人が「ブルースを聴くと自然に腰が動く」と話したことがある。あの頃はよくわからなかったが、今なら少しわかる気がする。こうしてブルースが白人社会に伝播し、そこからR&Bやロックンロールが生まれ、イギリスへと伝わって、ビートルズやローリング・ストーンズへとつながっていったんだろうなあ。ロックの歴史の原点を見る思いがする。
『ブルースの魂』
監督:ロバート・マンスーリス
出演ミュージシャン:B・B・キング バディ・ガイ ジュニア・ウェルズ ルーズヴェルト・サイクス ロバート・ピート・ウィリアムズ マンス・リプスカム ブッカ・ホワイト ソニー・テリー ブラウニー・マギー ファリー・ルイス ジミー・ストリーター
1973年(2022年2K修復版)/フランス/英語/88分/ ©︎1973-2022 NEYRAC FILMS/配給:オンリー・ハーツ 協力:ブルース&ソウル・レコーズ/全国順次公開中