その後、2016年5月に英紙「ガーディアン」が、東京五輪招致の買収疑惑を報道。フランス司法当局が、ラミン親子の汚職捜査を進める過程で、日本の招致委員会が五輪開催決定の前後に2回に分けてラミンの息子が関係する口座に約2億2000万円を振り込んだことも発覚する。フランス当局から捜査共助を要請された特捜部は、2017年にJOC会長、竹田恒和を任意で事情聴取。竹田は翌年12月、フランス司法当局の予審判事による聴取も受けた。
その間、特捜部も五輪とカネを巡る疑惑について手をこまねいて見ていただけではなかった。
ここに2017年に検察当局に持ち込まれた、東京五輪の最上位スポンサーである「ゴールドパートナー」の1社、富士通の接待リストがある。
2015年3月から2016年3月までの255件、約890万円の交際費の内訳で、執行役員らを司令塔にして、組織委員会幹部や電通役員らを都内の高級店で接待している様子が見て取れる。特捜部はこの資料をもとに、企業協賛金の行方や同業種のスポンサー企業との商権の駆け引きなどについて内偵捜査を進めていた。リストに「高橋治之」の名前はないが、その先にいるキーマンの動向を察知していなかったはずはない。
その後も形を変えながら特捜部の内偵捜査は続き、ターゲットが具体的な像として浮かび上がってきたのは、2022年の夏前。AOKIルートから芋づる式に治之の疑惑が噴き出し、彼は五輪招致の“功労者”から一転、汚れた五輪の“戦犯”として一身に批判を浴びることになった。
「安倍さんが元気だったら、こんなことには」
元日本サッカー協会会長、川淵三郎が治之について語る。
「高橋さんは、サッカー協会がまるでお金も何もない時にトヨタカップなんかを持って来てくれて、サッカー協会に財政的なゆとりを持たせてくれた。ある意味で恩人です。今回のことは、組織委員会の理事にさえなっていなければ罪に問われることはなかったし、気の毒だと思う。安倍さんがお元気だったら、こんなことにはならなかったのに……」
治之は組織委員会の理事に就任した際、挨拶の場で「電通に45年勤務して、そのうち35年をスポーツビジネスに関わり、五輪はロサンゼルス大会以降お手伝いさせて頂いた」と胸を張った。スポーツマフィアが跋扈する国際舞台で、幾多のビッグイベントを成功に導いた男は、いかにして頂点に上り詰め、そして堕ちたのか。
“五輪を喰った兄”には、“長銀を潰した男”と呼ばれた1歳違いの弟の存在があった。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。