高価な着物を凛と着こなしていた
映画でもうひとつ印象的だったのは、着物姿である。加代子が東十条との最後の決戦のため、高価な着物を着て彼の自宅を訪問するシーンでののんは、着物を凛と着こなしている。20歳の頃から断続的にバレエのレッスンをしてきたことが姿勢に生きたのではないかと、のんはパンフレットの取材で明かしている。
猫背が素朴で、アマチュア感があって魅力的だった能年玲奈はもういない。それは少しさみしくもあるが、すっとまっすぐな背中は彼女のこれまで生きてきた道筋である。筆者がどんな質問を繰り出しても、のんはきちっと役のサブテキストについて返してくる。ひとつひとつを考え抜いて演じている。中島加代子が小説を書き続けるために名前を変えたように、のんも名前を変えて俳優として生き抜いてきた。それは演じ続けるためである。名前は大事。けれど、たとえ名前が違っても、その人はその人でしかない。
のんはきっと演じるために生まれてきたのだ。
映画の取材日。映画の舞台になった山の上ホテルで終日、何本もの取材を受けたあと、試写会の舞台挨拶のため移動、夜、もう一度取材のためにホテルに戻ってきたのんは、絶対に疲れているはずにもかかわらず、緩みを一切見せず、丁寧に、そして楽しそうにインタビューに答えてくれた。
『私にふさわしいホテル』では『あまちゃん』での名コンビの橋本愛との共演シーンがある。橋本愛の主演映画『早乙女カナコの場合は』(3月公開)では、のんが『私にふさわしいホテル』と同じ有森樹李役で出演している。そこではこれまでの橋本愛との関係性とは違う役割なのだとのんはこれまた嬉しそうに語った。背筋を伸ばし先輩口調で橋本愛に向かうのん。のんはどこまでも自由だ。
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