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開業直後の新幹線で頻発した「トイレ閉じ込め事件」

 1964年に開業した東海道新幹線は、すべてのトイレの下に汚物を溜めるタンクが設けられていた。さすがに夢の超特急が排泄物をたれ流して走るわけにはいかない、というわけだ。

1962年、東海道新幹線の公式試運転会にて ©︎文藝春秋

 当時、世界的に見ても汚物タンク付きの鉄道車両はほとんどなかった。新幹線は、スピードだけでなくトイレも世界最先端だったのだ。

 そんな夢の超特急のトイレだが、なんと開業直後は閉じ込め事件が頻発していたという。

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 新幹線の車両は高速で走ることから、トンネルに入るときなどに耳がツンと痛くならないよう、気密構造になっていた。ところが、当初の設計ではトイレを含むデッキ部分は気密構造の対象外。

 そのため、トイレに入ったタイミングが悪いと、車外と車内の気圧差からトイレの扉が開かなくなってしまう、などということがあったのだ。最悪の場合、タンクの中から汚物が逆流することも。

 結局、ほどなく車両の修繕が施されてこうした問題は解消されている。とはいえ、いまほどは気軽に乗れなかった夢の新幹線。おお、トイレも最新鋭だな、などと思って用を足そうとしたら閉じ込められて、あげくに汚物が逆流してきたら……。せっかくの旅の思い出も、汚れたものになってしまったに違いない。

 トイレ閉じ込め問題はそれ以前にもあったようだ。理由は気圧ではなく設備の老朽化。戦前、作家の谷崎潤一郎は、雑誌『文藝春秋』に次のようなエピソードを残している。