一度だけ母に「おじさんの家に行きたくない」と伝えたんです。そしたら母が「じゃあウチに来てもらおう」と言ってきて、絶望しました。もう私が耐えるしかないと思って、地獄のような日々が1年ほど続きました。
そのときに、自分の心と体を切り離すスキルを身につけましたね。何かあったら、心の中に別の人格を作って、「これは私に起きていることじゃない。私とは関係ないことだ」と思うようにして。
性的虐待が繰り返されるうちに、怒りや悲しみも感じなくなり…
――感情を殺して。
橋本 最初は恐怖や戸惑いがあったんですけど、性的虐待が繰り返されるうちに、感情がなくなっていったというか。本能的に、そうしないと生きられないと判断したんだと思います。
自分の体と心を切り離すことで、怒りや悲しみも感じなくなって。感情のない、無機質な「道具」のようになっていました。
――当時は学校の先生などにも相談できなかった?
橋本 できなかったです。当初は、自分の身に起こっていることが恥ずかしいことだと思っていたので。
でも、自分の心と体を解離させるようになってからは、自分がおじさんから受けている行為に対して、無関心になって。誰かに話したいとか、聞いてほしい、助けてほしいという感情も湧かなくなってしまったんです。
大人になった今なら、「誰でもいいから、周りの大人はあのときの私を助けてあげてよ」って思いますけど。当時は、自分を救いたい、という気持ちすら失われてしまった。
中学、高校時代は記憶に蓋をして生活していた
――母親と交際相手は、約1年で別れたそうですね。
橋本 そうです。それで、私に対する性的虐待は終わりました。中学、高校時代は、自分の身に起きたことを思い出さないよう、記憶に蓋をして生活していましたね。
「自分は性被害に遭った」という認識はあったんですけど、私の中ではなかったことにしていたというか。
高校生になって、当時のパートナーと性行為をするときには、自分の身に起こったことと、今やっている行為はまったくの別物だと切り離して。もちろん、全然違う事柄なんですけど、大きく括ればどちらも「性的な行為」じゃないですか。でも、そうやって考えないようにしていました。