大群衆と炎の圧巻のクライマックス
そして、なんといっても圧巻なのは、一揆勢だ。京都に雪崩れ込んだ一揆勢と、骨皮率いる守備隊がぶつかる市街戦がクライマックスとなるのだが、これが凄い。画面を埋め尽くす大群衆が暴れ回り、ぶつかり合う。しかも時代劇の合戦シーンにありがちな漫然としたぶつかり合いではない。画面の隅々に至るまで、全ての俳優たちがそれぞれにアイデアを凝らしながら必死に戦っているのである。そのスペクタクル映像のド迫力も、近年の日本映画にはないものであった。
しかも、こうしたアクションがただ激しいだけではない。本作にはアクション監督の川澄朋章だけでなく、『侍タイムスリッパー』でも重みのある殺陣を創出した東映京都撮影所の若き殺陣師・清家一斗も参加している。これが大きかった。時代劇の本場である京都仕込みだからこその「間」の表現や「一刀の重み」の表現も加えられたため、近年の日本映画にありがちなただ激しいだけ、速いだけの軽いアクションに陥ることなく、その緩急により緊張感やドラマチックな感情表現がもたらされることになったのだ。
その一方で、実はVFXも良い仕事をしている。アクションや爆破で使用はできるだけ避けられた一方、実は京都市街戦で映り込む御所や屋敷といった街並の多くが、CGによって描かれているのである。ただ、それらは言われないと――というか言われても気づかないほど、精巧かつリアルに造られている。
本作は新旧・東西の技術を最高レベルで駆使した、現在日本映画の総力戦なのである。
『室町無頼』
1461年、大飢饉と疫病に襲われた京都。時の権力者は無能で享楽の日々を過ごす一方、貧しい者は地獄の苦しみを味わっていた。蓮田兵衛(大泉洋)は、己の腕と才覚だけで混沌の世を泳ぐ自由人。武術の才能を秘めた才蔵(長尾謙杜)と出会って兵法者として育てる。兵衛は腐りきったこの世を正すため、京都に空前絶後の都市暴動(一揆)を計画。その行く手を阻むのは、かつての友にして洛中警護役を担う骨皮道賢(堤真一)だった。兵衛の命を賭した戦いが始まる――。
監督・脚本:入江悠/原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)/出演:大泉洋、長尾謙杜、松本若菜、北村一輝、柄本明、堤真一/2025年/日本/135分/配給:東映/全国公開中
©2016 垣根涼介/新潮社 ©2025『室町無頼』製作委員会