昨年『あんのこと』が話題を呼んだ入江悠監督が、年明け早々すごい作品をぶち込んできた。カッコいいけどどこか気の抜けた近年の邦画アクションに飽いた活劇ファンも、肉弾相打つ激しい戦いに興奮すること必至だ。大群衆と炎の一大クライマックスを観れば、きっと2025年ベストワン候補と言いたくなる!

 

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かつてない大エンターテインメント活劇

 近年の時代劇というと、馴染みのない若い方からすれば「なんとなくとっつきにくい」という印象があるだろうし、見巧者の方からすれば「かつての作品に比べて役者も殺陣も映像もチャチなニセモノ」という印象があるのではないだろうか。つまり、誰も喜ばない作品ばかり――なのである。

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 かく言う筆者も「時代劇研究家」を名乗ってはいるが、昨今の時代劇で心から楽しむことができたのは一本としてなく、欠点ばかりに目が行っていた。そのため、表立ってはできる限りスルーしてきた。

 そうした状況下なので、この『室町無頼』に関しても「どうせ大したことないんだろう」という先入観を抱いている方も少なくないのではないかと思われる。だが、それはあまりにもったいない。

 

 日本映画に久しぶりに現われた、完成度の高い活劇だからだ。大きなスケールのアクション、画面の隅々まで埋め尽くされた群衆、細部まで徹底された世界観の構築、そしてシンプルで熱いドラマ展開――。近年の時代劇――どころか日本映画全体でもまず観られることのなかった大エンターテインメントが繰り広げられているのである。

舞台はこの世の地獄と化した京都

 時代は室町幕府八代将軍・足利義政の治世。重税に苦しむ人々が、無頼の浪人・蓮田兵衛(大泉洋)に導かれるように一揆を起こし、強大な幕府軍と戦う様が描かれる。

 室町時代ってよくわからないから、内容についていけないかもしれない――。そう危惧される方も少なくないだろう。だが、そうした人にこそ観てもらいたい。

 入江悠監督は室町中期という時代設定が一般的にイメージを掴みにくいことを逆手にとり、思う存分のイマジネーションを展開。『マッドマックス』シリーズや『北斗の拳』のような「荒野のディストピア」として、この時代を創出しているのである。吹きすさぶ風、巻き上がる砂埃、そして大地を埋め尽くす死屍累々。この世の地獄と化した京都を「荒れ果てた大地」として表現しているため、歴史の知識はなくとも全く問題はない。