結婚した相手は、借金あり、暴力あり、労働なしのダメ夫…。ついに堪忍袋の緒が切れた妻は、夫の殺人計画をくわだてる。どうしても夫から逃げたい彼女の計画はどんな結末を迎えたのか? 2020年に兵庫県で起きた事件を、前後編に分けてお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)
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250万円の貯金がパーに
小沢明奈(当時34)は高校時代からアルバイトを始め、無駄遣いせず、コツコツと貯金をしてきた。
高校卒業後はスーパーや総菜屋などで働き、貯金は250万円ほどあった。
24歳のとき、初めて交際相手ができた。それがのちに夫となる小沢忠志(当時37)だった。忠志は明奈に依存し、明奈の実家に転がり込むような形で、同棲を始めた。2人きりで部屋に閉じこもり、そのことを親族になじられると実家を出て行き、誰にも知らせずに入籍した。新居となったのが、やがて事件現場となるアパートである。
まもなく長男が誕生。明奈は忠志が200万円もの借金を抱えていたので、自分の貯金から肩代わりした。
また、忠志が「飲食店を経営したい」と言うので、両親が貯めていた学費に加え、自分自身がローンを組んで500万円を用意した。
だが、商売はうまくいかず、わずか2カ月あまりで店を畳むことになった。2人には月額7万2000円のローンだけが残った。
2人で頑張れば何とかなると思ったが、相変わらず忠志は仕事が長続きしない。代わりに明奈が働こうとしたが、乳飲み子を抱えている身では、なかなか仕事が見つからなかった。
夫の借金を援助交際・風俗で返済
生活は常に困窮した。明奈はそのために援助交際で稼ごうと思った。水商売すら経験のない明奈には、当然ながら抵抗もあったが、背に腹は代えられない。家事も育児も一手に担っており、自由になる時間はほとんどなかった。
だが、それが忠志にバレてしまった。明奈は不貞をなじられ、暴力を振るわれ、スマホの中身をチェックされて、今いる場所を写真で送るように命じられた。
次男が生まれると、生活はさらに困窮した。明奈は家計を支えるため、また隠れて援助交際するようになった。忠志の目をごまかすため、金が足りなくても足りているフリをしていた。
相変わらず忠志は働かない。にもかかわらず家族計画はいい加減で、明奈は28歳から32歳にかけて、3回も中絶させられる羽目に陥った。明奈としては「産みたい」と思っていたが、経済的事情から許されなかった。
子供たちが成長すると、託児所に預けて、風俗店で働くようになった。忠志には実家近くの花屋で働いていると言ってごまかしていた。
ところが、それもバレてしまい、明奈は子どもたちの前で土下座させられた。忠志の束縛はますますひどくなり、暴力もすさまじくなった。「外に出られない顔にするぞ」と言われたり、一瞬、息ができなくなるぐらい腹を蹴られたこともあった。