「夫の束縛や暴力、これから大丈夫なのかという経済的不安があり、夫を殺せば離れられると思い、やってしまいました」――数百万円にのぼる夫の借金を、風俗の仕事をしながら返し続けた34歳の女性。
借金あり、暴力あり、労働なし…そんなダメ夫から離れるため、ついに彼女はボーガンによる殺人を計画。夫に矢を放った彼女の「その後の人生」とは? なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
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夫をボーガンで殺そうとした日
事件当日、明奈と2人の子どもたちはリビングで寝ていた。いつもは忠志も一緒に寝るが、この日は寝室のベッドに1人で寝ていた。
早朝5時頃に目覚めたとき、明奈はそのことに気付いた。とっさに「矢を撃つには今しかないんじゃないか」と思い立った。
迷いがあったのでビールを飲んで落ち着こうと思ったが、ますます決断を強くしただけだった。
ボーガンを用意し、寝室に向かった。そのときに目覚まし時計が鳴ったので、慌てて引っ込めたが、忠志は寝ぼけ眼でスイッチを切り、再び寝入ってしまった。
(次の目覚ましが鳴る前にヤラなければ…)
忠志の頭を狙って、引き金を引いた。「バン!」というすごい音がした。忠志の頭に矢は刺さらず、跳ね返されてしまった。
「イタッ!」
忠志は上半身を起こして、頭を押さえた。
「大丈夫?」
思わず駆け寄ると、「触るな、痛い!」と振り払われた。それと同時に恐怖が湧き上がってきた。ここまでやったら、自分が反撃されて殺されてしまうのではないか。トドメを刺さなければならない。明奈は台所に包丁を取りに行った。
うつ伏せになっている忠志をクッションで押さえつけ、首筋に包丁を突き立てた。忠志は必死で抵抗し、明奈の手首と包丁をつかんだ。
「こんなことをしたら、子どもたちはどうすんねん。オレがここで死んだら、お前も子どもたちも不幸になるだけやんか!」