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 ただ、本番までは不安でしかたがなかった。そこへ姉が心配して電話をくれた。中山が「どうしていいのかわからない」と返すと、「じゃあ、お姉ちゃん、行きま~す」と言って、リハーサルを見てくれることになる。とはいえ、姉は来てくれたものの、具体的なアドバイスは一向に出ず、普段中山の舞台を見にきてくれるときと同じ調子で「可愛いから大丈夫」と言うだけであった。だが、最後に少しだけ真面目な顔をして、「あのね、ライブはやり続けることに意味がある。だから、これで終わらせちゃいけないよ」と言ってくれたという(『週刊新潮』2025年1月2・9日号)。

中山忍のインスタグラムより

 じつは姉のほうも、2020年に50歳になるのを記念して予定していた単独コンサートをコロナ禍のためやむをえず中止したのち、ようやくこの前年の2023年、24年ぶりの全国ツアーとして実現させていた。上記の妹への言葉もその感慨を踏まえて出たものだったのではないか。中山は姉の死後、このとき言われたことを改めて思い返し、《私にとっては、これが姉の遺言になったような気がしてなりません》と語っている(『週刊新潮』前掲号)。

「姉妹での最初で最後のドラマ共演、心を尽して演じます」

 中山は20代の終わりぐらいから姉と共演したいと、ことあるごとに語ってきた。あるインタビューでは、《どんなものをやりたいか、実は勝手にいろいろ描いてて……。ふたりでひとりの人を奪い合うような、本当のライバルをやってみたいなとも思うし。吉本ばななさんの『アムリタ』みたいな、姉が、亡くなった妹を心からいとおしく思っている作品もやりたいですね。仕事を通して、お互いの違う面を発見するかもしれないという興味もあります》と、具体的な作品名まで挙げながら夢見ていた(『婦人公論』前掲号)。

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中山忍のインスタグラムより

 吉本ばななの小説『アムリタ』では、主人公の妹は子役モデルから女優となるもノイローゼのため引退し、作家と暮らしていたところ、事故で亡くなってしまう。設定的に現実の中山姉妹と重なるところもあるだけに、もし実際に同作が映像化されて姉妹共演が実現していたらどんなものになっていたのかと、つい想像してしまう。

 結局、姉妹共演は、姉の生前には実現しなかった。それでも中山は今回、前出のドラマ『日本一の最低男』で姉の役を引き継ぐに際し、《姉が残してくれた、このご縁を大切に、姉妹での最初で最後のドラマ共演、心を尽して演じます》と誓っている(ドラマ公式サイト)。同じ場面で一緒に演じるわけではないが、姉の遺志をしかと抱えて演じるのだから、まぎれもなく共演といえる。来月、彼女が出演する回を観る側も心して見届けたい。