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高度に都市化された地域でさえ、大規模な自然災害には極めて脆弱だ。停電が生み出す混乱、渋滞による避難経路の機能不全、そして襲い来る炎と煙による恐怖は、我々の生活基盤がいかに災害に対して脆いものであるかを物語る。

一方、危機的状況を家族や隣人たちと共に生き延びた人々の体験談は、人間社会の絆と揺るぎない底力を映し出す。恐怖と闘いながら子供と活路を探し続けた母親や、パーキンソン病の義父のそばを決して離れることのなかった男性、超法規的にブルドーザーで避難路を開く当局などが、一度にひとつずつ、確実に人間の命を救った。

家や財産を失った人々の喪失感を、美談で済ませることはできない。だが、人々のつながりが希薄になったと叫ばれる現代において、共に助かろうとする本能的な互助の精神は、私たちの心の奥底にまだ生き続けている。

青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。