これまで殺し屋、娼夫、刑事、エリート官僚など幅広い役に挑んできた松坂桃李。『雪の花 ―ともに在りて―』は『居眠り磐音』(2019年)以来の時代劇だ。演じたのは疱瘡で苦しむ人々を種痘で救うために奔走する町医者。新鮮で充実した時間だったという。

撮影 杉山拓也/文藝春秋

主人公のひたむきな姿勢を

―今回、種痘の伝播に努力した江戸幕末の医師・笠原良策を演じていかがでしたか?

松坂 まずこのお話を頂いた時、小泉堯史監督とご一緒できるなら何をおいてもと参加表明しました。そうしたら、シナリオと同時に大量の資料も届き、笠原という人物を知らなかったので一から学びました。知っていくにつれ、難治の病とされていた疱瘡と戦うため町医者の身で蘭方医に学び、種痘を広めた意志力、その志に打たれました。シナリオにも疱瘡予防のために立ち上がるけれど数々のハードルを超えなくてはいけない過程が丁寧に描かれていて、演じるにあたりそうしたひたむきな姿勢を心がけようと思いました。

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―撮影前の役作りで心がけたことはありますか?

松坂 完成した作品をご覧になるとわかるように、とても現代的な要素があります。コロナ禍を経た僕らにとって病との対決は身近な問題です。良策がぶつかる幾つもの壁、偏見や官僚制、新しい技術に関することなどが時代劇の中に自然に入っています。だから役作りとしては“時代劇だ!”と肩肘張らず、自分の演じたあの時代と今は地続きなんだと考えてのぞみました。

―役柄としては町人でも武士でもない町医者です。立ち居振る舞いなど難しいと感じるところはありましたか?

妻・千穂とともに人々を救うため疱瘡に立ち向かう ©2025映画「雪の花」製作委員会

松坂 時代劇特有の所作、言葉遣いはありますが、患者さんを受け止める姿勢をしっかり演じようと心がけました。小泉監督は「脚本をとにかくよく読むこと」を勧めてくれ、みんなで読み合わせをし、現場でも綿密にリハーサルをやって下さったので、演じる上での壁がなかったのはとても助かりました。