天の声「相手を殺せ、殺せ」と常にささやいてくる…かつて覚せい剤にハマったことで、そんな幻聴に悩まされるようになった元山口組系組長の竹垣悟氏。ついには仲間にまで刃を振るうように。症状がどんどんエスカレート中、違法薬物からどうやって脱出したのか? 新刊『極道ぶっちゃけ話「山口組四代目のボディガード」の半生記』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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天の声が「殺せ……」とささやいてくる
覚せい剤を使っていたころ、ある日突然、誰かが耳元で「大木を殺せ……」とささやいた。
大木とはヒロポンを段取りしてもらっていた兄弟分である。
私はこれを「天の声」だと思い、大木にドスを持たせ、私もドスを持った。事情を飲み込めずポカンとしている大木に対して、私は躊躇わずに大木の頭を削り、メッタ斬りにした。
まるで漫画のようだが、ここがヒロポンの恐ろしいところで、自分の行動をコントロールできなくなるのである。
ひたすら凶暴な男となってしまい、当時はまだ街にいた野良犬たちも、ヒロポンを打った私のそばには近寄らなかったぐらいだ。
覚せい剤を打つと、頭のなかで「相手を殺せ、殺せ」と悪魔がささやき続け、私は狂犬どころではなく、悪魔の申し子のようになってしまう。
いま思い出せば恥ずかしいかぎりなのだが、そんな若者だった。
戦後の実在のやくざで、渡哲也主演、深作欣二監督で映画化された『仁義の墓場』の石川力夫をイメージしてもらうといいかもしれない。もともと凶暴だったが、ヒロポンに体を侵され、自分の親分や兄弟分にまで斬りつける始末である。若かった私は石川に憧れ、石川のように死にたいと思っていたのだから、始末に負えない。
石川は服役中に府中刑務所の屋上から飛び降り自殺している。享年30であった。
辞世として「大笑い 三十年の 馬鹿さわぎ」と残している。もうこんなムチャクチャな男は出てこないだろう。
こんな私が覚せい剤をやめられたのは四代目の忠告があったからだ。
大切な人や守るものがあれば、薬物はやめられると思う。