「覚せい剤による妄想は恐ろしく、時には人を殺してしまうこともある。私も危うく人を殺しそうになった経験がある」と語るのは、元山口組系組長で、現在は暴力団員の更生支援のために活動するNPO法人五仁會(ごじんかい)代表の竹垣悟氏。

 経験者だからこそ知る「薬物の怖さ」とは? そして、薬物にハマった竹垣氏はいかにしてそこから脱出できたのか? 新刊『極道ぶっちゃけ話「山口組四代目のボディガード」の半生記』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

若かりし頃、ヒロポン中毒になった竹垣悟氏。経験者だからこそ知っている「薬物中毒の恐ろしい症状」とは?(写真:本人提供)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

 覚せい剤はインターネット上で買えるようになり、いまもやくざのシノギとなっている。

 ネット上では「冷たいやつ」「アイス」などと書かれているが、弁当などについている金魚型の容器に入った「キンギョ」、または「スピード」「エス」などとも呼ばれる。シャブ、ネタ、ブツ、クスリなどは聞いたことがあるだろう。

 日本では覚せい剤、麻薬、あへん、劇物(シンナー、トルエン、接着剤など)について、それぞれ法律で規制されている。

 麻薬とは麻酔作用を持つ植物からつくられたコカインやモルヒネなどだが、最近ではMDMAなどの合成麻薬も問題になっている。

 また、危険ドラッグも大きな問題だが、危険ドラッグは成分が安定しておらず、すぐに死ぬことが多いので、扱わないやくざも増えている。文字どおり「危険」なのだが、これは何も買った相手を心配しているわけではない。薬物は常用させて、つねにカネを取るのがシノギなので、すぐに死なれては売人も困るからである。

失うものは健康だけじゃない…違法薬物の代償

 たいていの違法薬物には興奮作用があるので、メシがうまくなり、セックスの快感が増すが、その代償は計りしれない。健康だけでなく、社会的地位や信用も失ってしまうのだ。

 ポン中の世界とは、いわば仏教でいう無間地獄である。苦しみが際限なく続くのだ。違法薬物を使用していると、繊細な神経の持ち主をつくる。よくいえば一途、悪くいえば小心になるのだ。その結果として、暴力を振るうこともある。

 そして、薬物欲しさにウソをついて人からカネを借りたり、抗争事件に備えて組から預かっている拳銃を横流しして薬物に換えてしまったりする。この無間地獄から救うのも五仁會の務めなのだが、もちろん簡単ではない。

 違法薬物はいろいろな面でよくないとわかっているはずなのに、なぜ手を出す者があとを絶たないのだろうか。