朝日新聞の事件記者だった緒方健二さん。地下鉄サリン事件をはじめ、数多くの殺人事件や暴力団抗争、凶悪事件を取材し、「伝説の事件記者」と呼ばれていた。
そんな緒方さんは2021年に朝日新聞を退社。2022年に63歳で短大の保育学科に入学し、保育士資格、幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取得した。
なぜ彼は、セカンドキャリアに「保育の道」を選んだのか。20歳以上年下の同級生たちと、短大で何を学び、どのようなキャンパスライフを送っていたのか。ここでは、緒方さんの著書『事件記者、保育士になる』(CCCメディアハウス)より一部を抜粋して紹介する。(全3回の3回目/1回目から読む)
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採点への不服申し立て
別の教員とは試験の採点をめぐり、じっくりと話し合いました。
この教員の担当科目で「良」評価を受けました。すでにピアノ実技で不合格のち最低合格「可」を食らっています。野獣諸法度「全科目最高評価」の野望は潰えていました。
とはいえ、これ以上の躓(つまず)きはもう許されません。試験問題を思い出し、自己採点しました。
「学内歌の歌詞を書け」との問題にはのけ反り、適当に回答したため減点はやむを得ません。他の問題はそこまで不出来だったわけではない。ぎりぎりで最高評価の「秀」、悪くて次の「優」、その下の「良」はないだろうと確信しました。
疑問はすぐにでも解決しなければなりません。新聞記者の仕事でも保育の仕事でもそれは同じです。
学科長経由で担当教員と面談しました。減点の詳細を聞いて愕然としました。複数の空欄を用語で埋める問題で、回答した用語は正しいが「その順序が異なる」として0点に。
原爆を題材にした絵本は「残酷だから」減点
平和を子どもに伝える際に用いる教材を問われ、当方は原爆を題材にした絵本を挙げました。0点でも納得しませんが、減点されていました。「残酷だから」と理由を説明なさる教員に「お読みになったことがありますか」と聞くと、「いいえ」とおっしゃる。
怒りよりも情けなさが込み上げました。
ほかの教員も交えた会議で評価の見直しが決まり、「優」に落ち着きました。
同様の物差しで全学生の回答を評価しているはずです。それによって不合格となり、数千円の追試料を払って再試験を受ける羽目に陥るケースもある。