映画『愛を耕すひと』が2月14日から公開となった。
2月14日といえば、バレンタインデー。しかも『愛を耕す』とくれば、さぞかしロマンチックな映画なのかと思いたくなる。
しかし本作は、史実を基に描かれた、18世紀デンマーク開拓に尽力したある英雄と、その“家族”の愛の軌跡を描いた、ヒューマンドラマである。
厳しい開拓の歴史
物語は、1755年、貧窮にあえぐ退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉(マッツ・ミケルセン)が、長年不可能とされた広大な荒野の開拓に、単独で名乗りをあげるシーンから始まる。
開拓の過酷さや厳しさは、歴史が如実に物語っている。日本でも明治期以降、国策として北海道開拓や満蒙開拓、ブラジル開拓などが行われたが、そこには多くの苦しみや犠牲があった。
本作も御多分に洩れず、厳しい開拓の苦労が描かれている。光をおさえたフィルムのようなざらざらした色合いが、重苦しい空気を増長させている。
ケーレンの野心
デンマークは、北海道よりさらに北の、北緯54~57度に位置する国である。日本の最北端でも北緯45度なのに、そこから10度以上北となれば、冬の厳しさは想像を絶するはずだ。
それに、いまでこそ北海道には絶品グルメが豊富にあるが、日本で北海道の開拓が始まったのは1869年。そこから原生林の生い茂る土地を開墾し、多くの人手と予算、100年以上の年月をかけて現在の産業振興を生み出したことを考えれば、北海道開拓の100年以上前に、退役軍人が一人で開拓しようだなんて、無茶にもほどがあると簡単に想像がつく。
もちろん、開拓を名乗り出たケーレン大尉も、不毛の地を開拓するという自分の申し出がいかに無謀な挑戦なのか、ということは十分にわかっていた。それでも、彼には開拓を成功させ、「国王から貴族の称号を得る」という、どうしても譲れない想いがあったのだ。
ケーレンがそこまで貴族の称号にこだわった理由については、映画の原題『Bastarden』が物語っている。開拓地で建てたバラック小屋を「王の家」と名付けるのも、同じ理由である。
ケーレンはその野心のために、残りの人生すべてを賭けて、孤独な戦いに挑んでいく。