好感も共感ももてない主人公
しかしこの退役軍人、主人公なのに無口で無愛想。目的のためなら手段を選ばない冷徹な人間で、まったく好感が持てず、共感もできない。それゆえ、なかなか応援しようという気持ちになれないのだ。
最初の脚本では、ケーレンはもっと共感できるキャラクターとして描かれていたそうだが、マッツ本人が反対し、現在のキャラクターになったのだという。
ヒーローではなく、がむしゃらに自分の成功だけを目指す人物へと振り切ったことで、好感も共感ももてないが、ケーレンの人間性と存在感は増したように思う。
邦題『愛を耕すひと』の意味とは
ところが、物語中盤あたりから、このケーレンの人間味が増してきて、俄然応援したくなってくる。非道な領主、デ・シンケルから逃げてきたアン・バーバラと、肌の色が黒いことで「不吉な子」と虐げられてきたタタール人の少女、アンマイ・ムスとの暮らしによって、氷のように閉ざしていたケーレンの心がほぐれていくからだ。
邦題の『愛を耕すひと』は、このふたりの女性(と、もうひとり貴族の女性が登場する。ぜひ映画を観てほしい)たちとの「愛」を耕す、という意味が含まれている一方で、ケーレンが自分自身の心も耕していく物語なのだと解釈することもできる。
個人的には、少女アンマイ・ムスとの交流に感銘を受けた。この子役のメリナ・ハグバーグは、本作が映画デビュー作とは思えない熱演で、本作に「光」をもたらしていた。
アマンダ・コリンが演じた、アン・バーバラの「自分を信じる」強さと、大事な人を守る優しさにも涙した。
どんなに過酷な試練のなかにも春は来る。大事なのは、春の訪れを信じ続けるかどうか。その信念を貫き通す強さと、太陽のように降り注ぐ愛こそが、ケーレンが開拓して見つけた本当の宝なのかもしれない。