政治系ユーチューブ・チャンネルの影響力

 尹氏らの主張に大きな助けとなっているのが右翼系のユーチューブ・チャンネルだ。政治系チャンネルとして多数の登録者を誇る高成国TVを運営する政治評論家、高成国氏によれば、左右両派のチャンネルはそれぞれ200~300ほどあるという。

 尹氏も愛聴していたという高成国TVは1月28日時点で、登録者が約121万人。非常戒厳の時点よりも8万人ほど増えた。毎日2時間ほど、生放送を行っている。タイトルを見ると「20(代)30(代)を激怒させた民主党のたわごと」「金建希女史の面会禁止、左派の背徳的戦術」「民主党、検察、裁判所、何を隠しているのか」など、刺激的なタイトルが並ぶ。

 大統領府の元幹部は「非常戒厳を肯定する人はいないし、尹大統領が弾劾されるべきだと考えている人も6割程度いる。その一方、毎日、新しい話題を絡めながら、尹氏の主張を繰り返し聴くうちに、尹氏への同情が広がっている」と説明する。1月19日、尹氏の逮捕状を発布したソウル西部地方裁判所の敷地に、尹氏の支持者ら100人あまりが乱入し、ガラスを割るなどの乱暴狼藉を働いた。元幹部は「10~30代の若い人が半数程度を占めていたようだ。これもユーチューブの影響だろう」と語る。

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尹大統領の釈放などを訴える支持者たち ©時事通信社

「オールド・メディア」よりも、刺激的なユーチューブを選ぶ若者層

 2017年3月の朴槿恵大統領(当時)の弾劾では、朴氏と保守系与党の支持率はずっと下がり続けた。当時、朴氏は公式の場での反論を一切控えた。また、当時はユーチューブもそれほど盛んではなかった。高成国氏も「朴槿恵大統領の弾劾時、私の主張を聞いてくれるメディアがなかった。それで、2018年にユーチューブを始めた」と語る。

 もちろん、韓国には様々な「オールド・メディア」がある。ケーブルテレビも充実していて、尹氏の拘束時には、各局が生中継を行った。ただ、ユーチューブのような煽情的な言葉や、思い切り角度をつけた分析は控えている。かといって、「オールド・メディア」が厳正中立の姿勢を維持しているということもない。大多数のメディアが「保守」「進歩(革新)」系に色分けされている。視聴者たちにしてみれば、若者層を中心に「どうせ、角度がついた報道なら、面白くて刺激的なユーチューブの方を楽しみたい」という心理が働くようだ。