莫大な経済的損害だが、「被害者影響陳述書」には、大谷選手がそれ以上に被った感情的損害も述べられている可能性もある。絶大な信頼を置いてきた水原被告に裏切られたのだから。実際、大谷選手は記者会見でも「僕自身も信頼していた方の過ちというのを悲しいというか、ショックですし、今はそういうふうに感じています」と述べていた。求刑文書によると、水原被告はドジャースからの50万ドルという、通訳にしては超破格と言っていいサラリー以外に大谷選手からも個人的にサラリーとポルシェまでもらっていた。水原被告に信頼を置いていたゆえの大谷選手の善意の表れと言えるだろう。しかし、信頼も善意も、気づかぬところで裏切られていたわけである。
傷つけられた大谷氏の評判と信用
また、求刑文書は「たとえ被告が被害者に返済できたとしても、それは不可能だが、被告の行為は経済的損害以上の形で大谷氏に損害を与えた。実際、被告の行為は大谷氏の最大の資産である評判と信用を傷つけた」としている。
確かに、大谷選手が評判を傷つけられたことは間違いない。著名人からも、大谷選手が銀行口座のお金が不正に管理されていることについて気づいていなかったのはおかしいと大谷選手を疑う声が上がっていたからだ。求刑文書の脚注には、元メジャー・リーガーのピート・ローズ氏やスポーツや選挙を予測する統計学者でタイム誌により「世界で最も影響力のある100人」の1人に選ばれたこともあるネイト・シルバー氏が大谷選手も水原被告のスキャンダルに関与していた可能性があるとの見方を示す記事のURLが掲載されている。ローズ氏は「70年代、80年代に通訳がいれば(自分も)無罪放免だった」と皮肉り、シルバー氏は「ミズハラがオオタニから盗んだとされる1600万ドルと、胴元に対して負った損失4100万ドルとの間にある大きなギャップをどう説明するのか? 複数の人が賭けていたのではないか」と疑問視していた。
著名人の影響力は大きい。SNSでも、当初、大谷選手の関与を疑い、「オータニを逮捕しろ」「オータニが賭博をして、イッペイをスケープゴートにしているんだ」といったバッシングするコメントが多々あがっていた。こういったコメントは、大谷選手を精神的に傷つけたことだろう。また、求刑文書によると、今もまだ、メジャーなeコマースサイトが面白画像に改変した大谷選手の商品を販売し、彼も犯罪に関与していることを示唆しているという。これも、大谷選手を傷つける行為だ。そして、大谷選手も犯罪に関与しているとする見方や商品はこれからも出続ける可能性もある。つまり、大谷選手は将来にわたって傷つけられることになるかもしれない。