表層より実質
伸び盛りの社会が顕示的で外在的な装飾を求めるのに対して、成熟した社会は内在化された実質を志向する。ユニクロのコンセプトである「ライフウェア」はその典型だ。ライフウェアはZARAやH&Mのような「ファストファッション」ではない。かといって、GAPのような従来の「カジュアルウェア」でもない。「部品としての服」という考えである。普通の人々の快適な生活のベースとなる部品。部品である以上、そこには機能や用途についての提案が込められている。ときどきの流行を追うわけではないが、時間とともに進化していく。そうした部品がヒートテックでありエアリズムでありウルトラライトダウンであり、先に触れたUniqlo Uのプレーンな無地Tシャツなのである。
ユニクロの服は、その人を顕示したり個性を主張するものではない。個性は表面にある服ではなく、その人の中にあるもの。こちらとしては最高の生活部品を提供しますので、個性はそちらが勝手に発揮してください、というスタンス。ユニクロは刹那的なファッションではなく、実質的な価値に狙いを定めている。
無印良品は「つつましく、満ち足りたくらし」(Good enough Living)を標榜している。つつましく、満ち足りたくらし。成熟した社会のありようを見事に表現したフレーズだと思う。「無印」という名前からしてそうだが、表層的な顕示にとらわれない実質的な価値が、ギラギラ路線のオルターナティブとして中国の消費者を惹きつけている。
ヨーロッパの成熟した市場でも、ユニクロや無印良品は知的で落ち着いた生活を志向する顧客層に受けがよい。中高年はもとより、旬の流行を追いかけるよりも、生活の実質を重視し、プレーンでシンプルでベーシックなものを好む若者が増えてきている。成熟社会のメガトレンドであるといってよい。服に凝るよりも、まずは姿勢を整えた方がよい。姿勢を整えるよりも、まずは体型を整えた方がよい。プレゼンテーションのテクニックを習得するよりも、まずは言葉を豊かにしたほうがよい。言葉を豊かにするよりも、まずは人に語りかけるべき内容を豊かにしたほうがよい。表層よりも基盤を優先するという考え方である。
「ラグジュアリー」という言葉、これは単に豪華とか贅沢ということではない。人に見せびらかすという外向きの価値ではなく、自分にとって気持ちいいとか快適だという内向きの価値を意味している。考えてみれば、ユニクロや無印良品は僕にとって最高のラグジュアリーなのである。僕の好みでいえば、服にお金をかけるよりも、より快適なジムや読みたい本にお金を使ったほうがイイ。この1年間、きちっとしたスーツ&タイをどうしても着用しなければならない局面(四半期に1回ぐらいしかないが)を除いて、僕はユニクロ以外の服を着たことがない。それでもまったく問題ない。いよいよラグジュアリーな生活をしているといっても過言ではない。