名優の対照的な演技に、誰もが知っている史実を元にしたスリリングな展開――。映画史・時代劇研究家の春日太一が選んだ見逃せない2025年2月公開の新作映画3本はこれだ!
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『ドライブ・イン・マンハッタン』
ショーン・ペンといえば、「俺の名演技を見ろ!」と全身でアピールしてくるような、コッテリとした大熱演を得意としてきた俳優だ。それはベテランの域に達した今も変わらない。
本作は、そんなショーン・ペンがほぼ出ずっぱりであり、一段とそのコッテリ度は高くなっている。そのため、ショーン・ペンが苦手な方は思わず敬遠してしまうかもしれない。だが、それはもったいない。
というのも、これは「ショーン・ペンらしさ」を逆手にとった作品でもあるのだ。
彼が演じるのは、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港に常駐するタクシー運転手。夜間のフライトを終えたダコタ・ジョンソンの演じる女性客がそのタクシーに乗り込み、目的地のミッドタウンに向かうところから物語は始まる。
で、この運転手がとにかく厄介。女性客のことを勝手にプロファイリングしてきたり、プライベートな質問をぶつけてきたりと、やたら干渉的なのだ。疲れた夜間の移動でこうした運転手はただでさえ困りものである上に、それがショーン・ペンのオーバー気味な演技で表現されているため、心の底から同情したくなってきた。
ただ、これが本作の仕掛けだったりする。彼女は妻帯者と不倫中で、そのスマホには彼女を性的な対象としか考えていない下品極まりないメッセージが、相手の男からひっきりなしに送られていた。そのため、運転手の干渉的なコミュニケーションが、むしろ気晴らしになってくるのである。同時に、ショーン・ペンの演技の濃さが、一人の人間として頼りがいあるものとして見えてくる。
大渋滞に巻き込まれたことで、二人は互いの秘密を暴露し合うゲームを始める。それは、タクシー運転手と客という、閉ざされた空間での一期一会の関係性だからこその、秘密の共有であった。
女性客はまるで優秀なカウンセラーと出会ったかのように、その感情が露わになっていき、最終的には抱えていた闇が浄化される。その様を、微妙な表情の変化を通して演じるダコタ・ジョンソンの演技も絶品。マンハッタンの夜景とともに心の傷が柔らかく溶け合う、大人の癒しのドラマであった。
『ドライブ・イン・マンハッタン』
2月14日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開 ©2023 BEVERLY CREST PRODUCTIONS LLC. All rights reserved./監督・脚本:クリスティ・ホール/撮影:フェドン・パパマイケル/出演:ダコタ・ジョンソン ショーン・ペン/2023年/アメリカ/英語/100分/シネスコ/5.1ch/カラー/原題:Daddio/日本語字幕:神田直美/配給:東京テアトル/提供:東北新社/公式サイト:https://dim-movie.com