ニコラス・ケイジが熱演する『シンパシー・フォー・ザ・デビル』
『ドライブ~』が「運転席のショーン・ペンと二人きり」という映画なら、本作は「後部座席のニコラス・ケイジと二人きり」という映画。ショーン・ペンと同じくコッテリした演技に定評のあるベテラン俳優は、近年はその濃さを自身でも確信犯的に楽しんでいるような節があり、嬉々として演じている様はユーモラスな可愛げすら感じさせる。
本作も、まさにそう。
ジョエル・キナマンの演じる主人公は妻の出産に立ち会うため、車を走らせていた。ようやく病院に着いたところで、後部座席にニコラス・ケイジの演じる謎の男が乗り込んできて、銃を突きつけられる。その男に命じられるまま、主人公は車を発進せざるをえなくなり、病院から遠ざかっていく――。
男は何者か。なぜ主人公が狙われているのか。そして目的は何か――。終盤まで、それは明かされない。そのミステリアスさが、赤い髪をしたニコラス・ケイジの異様な姿とあいまって、この男の不気味なサイコパスぶりを際立たせる。そんな奴がハイテンションに脅してくる上に、どこにも逃げ場がないものだから、主人公がひたすら哀れに思えてくる。その図式は、『ドライブ~』と似ているといえなくもない。
しかも、後半になって互いの過去が明らかになるにつれ、そのハイテンションさが違う見え方になってくる点も、実は『ドライブ~』と同じ構図だ。ただ、待ち受ける結末は全く違う。見え方が変わったからこそ、彼の終幕は苦く、哀しい。
そう考えると、この赤い髪の男も主人公を襲う前に、ショーン・ペンの運転するタクシーの後部座席に乗り込む機会があったら、彼の傷もまた癒されたのかもしれないと思えてしまった。
二人がどんな濃厚な演技をぶつけ合う芝居を繰り広げるのか――。想像するだけで楽しくなってきた。
『シンパシー・フォー・ザ・デビル』
2月28日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開 ©2023 Sympathy FTD, LLC ALL RIGHTS RESERVED/監督・脚本:ユヴァル・アドラー/出演: ニコラス・ケイジ ジョエル・キナマン/2023年/アメリカ/英語/90分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Sympathy for The Devil /本語字幕:西澤志保/映倫:G/配給:AMGエンタテインメント/公式サイト:https://sympathy-devil.jp/



