台本なし、ナレーションなし、音楽なし。カメラが捉える映像のみを提示する「観察映画」の方法で独特のドキュメンタリー作品を発表し続ける想田和弘監督。アメリカ最大のアメリカンフットボール・スタジアム“ザ・ビッグハウス”を観察対象にした、その新作の企みをインタビューしました。

(C)2018 Regents of the University of Michigan

10万人以上の観客収容数を誇る全米最大のスタジアムに密着

――想田さんはアメリカにお住まいなんですよね?

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想田 93年からですから、もう25年になりますね。

――アメリカを舞台にした作品は最新作『ザ・ビッグハウス』が初めてになるそうですが、大学アメフトの聖地を撮るきっかけは何だったのでしょうか?

想田 このスタジアムはミシガン大学のアメフトチーム「ミシガン・ウルヴァリンズ」の本拠地なんですが、ミシガン大学のマーク・ノーネス教授から「ビッグハウスの観察映画を学生と一緒に撮る授業をするから、来ないか」と誘われたんです。90年以上の歴史を持ち、10万人以上の観客収容数を誇る全米最大のスタジアムですから、ここに集う人、起きていることをじっと観察すれば面白い映画になるだろう。そう考えて参加しました。

想田和弘監督

プロ用のカメラを持つのが初めての学生含め、17人で撮影

――学生も一緒に撮るということですから、これまでの映画制作とは勝手が違ったと思いますが。

想田 いつもなら自分でカメラを回しながら手応えをつかめましたけど、今回はいつも以上にどんな完成形になるか予想がつきませんでした。僕も入れて17人でカメラを持って撮影をしたんですが、中にはプロ用のカメラを持つことさえ初めてという学生もいました。もちろん撮影に入る前に練習の課題を出したんですが、正直「大丈夫か、これ」っていう感じもあって……。

学生に撮影方法を指導する想田さん 写真=テリー・サリス

――たとえば学生のどんなところに不安を覚えたんですか?

想田 一つは「寄れない」こと。やっぱりカメラを人に向けるのって慣れていないと怖いんですよね。だから、遠慮しちゃって、ものすごい遠いところから対象を撮影してしまう。もう一つは「長回しができない」。3秒ぐらい撮ったら停止ボタン押しちゃう学生もいたんですよ。そんな断片ばかりじゃ編集できないですからね。「1時間ぐらいは録画停止ボタン押しちゃダメ」って指示したりしました(笑)。そんな感じだったので、最初は映画にならないかもしれないって、覚悟もしてたんです。いい意味で裏切られましたが。

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