男子十数人が声を揃えて「ブッス~~~!!」
――どんなことが?
安彦 ある日、男子十数人が私に向かって、声を揃えて「ブッス~~~!!」って言ってきたんですよ。
──それは傷つきますね。
安彦 それまで自分の顔について何も考えてなかったんですけど、その日を境に自分が大嫌いになりました。すべてに自信がなくなって、自分の存在自体がイヤで。
それで思春期になったら、ニキビは出るし痩せないし。高校は女子校に進んだので、男子からますます遠ざかり、彼氏はできなかったんです。楽しみはサブカル雑誌の『宝島』を愛読すること。
こんな状態で、明るい青春なんてないんですよ。地元はつまらないし、早く出たいと思ってました。
――それで、高校卒業後に上京するんですね。
安彦 はい。専門学校に入る口実で、1988年に東京に来ました。それから演劇をやったりマンガを描きつつ、サブカル業界の人たちと知り合って、19歳で初体験をしたんです。
――念願の彼氏ができたんですね。付き合ってから初体験までは慎重に?
安彦 それが真逆で。私、セックスした後に付き合ったんですよ。だから昭和の「恋のABC」の順なんかすっとばして、その日のうちにいきなり全部終わらせました。
――お相手とはどこで知り合ったんですか?
安彦 演劇界隈の当時35、6歳ぐらいの妻帯者。不倫だったんです。
「処女を卒業したら、キレイになったかな?」
――初体験の相手が妻帯者とは、山形時代からは考えられないですね。
安彦 でも当時、東京の女友達は私より先にどんどん経験したり、男と同棲とかしてるわけですよ。それがモテない私にはうらやましくて。「自分は最悪だ、もうこのまま男と付き合わない人生かも……」と、男性経験がないことにすごく引け目を感じてたんです。
だから、初体験はできるものならすぐにでもと思ってたし、実際その場になったら「私にもチャンス到来!」みたいな(笑)。で、コトが終わったら、速攻で鏡を見にいきました。
――鏡ですか?
安彦 はい。「処女を卒業したら、キレイになったかな?」と。ようやく彼とひとつになれた……みたいな乙女心はなく、「ついにやれた!」「やってもらってありがたいッス」ぐらいの気持ちでしたね。
――初体験の感覚はどうでしたか。
安彦 気持ちいいとかの感覚はなかったと思います。やっぱり、痛いじゃないですか。それでも別にイヤじゃなくて「ひとつ先の段階に行けてよかった」ぐらいの感じでしたね。
――女として1ステージ上がった、みたいな。
安彦 そうですね。鏡を見たのも、処女じゃなくなった自分がどう変わったのか知りたかったんですよね。見たら、いきなり大人にはなってないけど、楽しそうな顔してるなとは思いました。「イキイキしてるな、自分」って。