『ゲーテはすべてを言った』で第172回芥川賞を受賞した鈴木結生さん。大学院で英文学を専攻する23歳の鈴木さんが、大きな影響を受けた作家たちについて語る。

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「チーム林芙美子賞」で過ごした選考会当日

 ──芥川賞の選考会当日は、作家の朝比奈秋さんと大原鉄平さんと一緒に選考会場の料亭「新喜楽」にほど近い築地の朝日新聞社で「待ち会」をしていたと聞きました。

 鈴木 僕は昨年、「人にはどれほどの本がいるか」という作品で林芙美子文学賞の佳作を受賞してデビューしたのですが、大原さんは同じ年の大賞。昨年、芥川賞を受賞された朝比奈さんもデビューは林芙美子賞なので、「チーム林芙美子賞がいまキテる!」という話で盛り上がりながら待っていました。

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 受賞が決まった後の2次会には、同じく林芙美子賞を受賞し芥川賞も受賞された高山羽根子さんも駆けつけてくださって、「受賞後はエッセイをたくさん書くことになるよ」といった芥川賞作家からしか聞けない貴重なアドバイスをいただきました。

鈴木結生氏 Ⓒ文藝春秋

 ──23歳という若さでの受賞も話題となりました。大江健三郎と同じ23歳で受賞したいと密かに思っていたそうですね。

 鈴木 大江さんが2023年に亡くなったことには、大変なショックを受けました。大江さんの作品を愛読し、畏敬の念を抱いてきたからです。僕のなかで大江さんは本当に大きな存在で、僕が彼の作品を読み始めた頃には、もう新作はほとんど出ていませんでしたが、同じ世界にいるだけで安心できました。訃報を聞いてからは、2日間泣き暮らしたほどです。だから昨年デビューした時から、心の中でうっすらと「大江さんと同じ年齢で芥川賞を受賞できやしないか……」と考えていました。

 小学5年生まで福島県で暮らし、東日本大震災で県外への避難を余儀なくされた僕には、震災を受けて書かれた遺作『晩年様式集』が深く心に残っています。この作品の中で大江さんは、非常に複雑な自己言及をおこなっていて、そこに僕は文学の希望を感じたんです。「文学って、これだけむちゃくちゃ書いても理解して読んでもらえるんだ」と。勝手な解釈かもしれませんが、大江さんは本当に言葉の力を信じていたんだなと思いました。僕もそれを形にして繋いでいかなければならないと決意を新たにしました。