――どんな風に指摘をされたんですか?
東野 例えばプーチン大統領がウクライナをネオナチだと言っていることについて「それは違う」と言ったら、「実際にネオナチっぽい人はいますよ」と反論される。でも、そんな人はドイツにもフランスにもいるし、ウクライナが特別そういう人が多い国なわけじゃない。そう言っても、わかってもらえないんです。言い返すとさらに炎上するので、言い返さない方がいいのかなと思う時もありますね。
――とはいえ放置していると、言っていないことが「東野先生の発言」として広まってしまう危険性がありますよね。
東野 曲解して絡んでくる人たちに反論し続けているうちに気づいたんですが、中傷する人たちって、何を言っても100%認識を変えないんですよ。むしろ、言い返すことによって粘着性を生んでしまうことが分かりました。
――よくわかります。
東野 これまで、私にとっては、ウクライナの現状やヨーロッパ各国の政情を学者として分析し伝えることが大事だと考えていたので、批判中傷してくる人たちについてそれほど気にしてこなかったんです。今でも葛藤していて、SNSで的外れな非難や捏造を目にすると、やっぱり言い返したくはなります。でも言い返しても、メリットよりデメリットの方が大きいと思ってしまいますね。
「炎上が怖いから発信を止めようというのは少し違うのかな、と」
――私もSNSでは度々炎上するのですが、個人の意見には反論しないようにしています。
東野 私の知り合いのインフルエンサーも、一切反論しない代わりに、自分が正しいと思う情報を湯水のごとく流し続ける手段を取っている人がいます。多くの情報に触れられれば、こっちの情報の方が正しいと思ってもらえると信じて。私もそれがいいなと思うようになってきました。
――量で勝負するしかないのも苦しいですね……。
東野 そもそも私がSNSで発信しているのは、筑波大学の教員としての仕事ではなくて、私が研究してきた国際関係のリサーチのお裾分けという意味合いが強いんです。だから秘匿性が高いものは別にしても、細く長く発信していった方が日本の将来にはいいと信じてるんですよね。そう考えると、炎上が怖いから発信を止めようというのは少し違うのかな、と。
――本職の研究者の方がSNSで発信しなくなったら、今以上に何を信じればいいかわからなくなってしまいますよね。
東野 もちろん学者仲間の中には、論文や本の執筆で研究成果を発表すればいいという考えの人もいます。ただ国際政治は刻々と状況が変わるので、タイムラグはなるべく避けたい。だからSNSで発信しているんですけど、中傷はその避けられないリスクですね。

