私が巨人軍球団代表のころは、公取委から独禁法違反を指摘されることなど考えられないことだったが、いまは違う。現に昨年9月、1人の弁護士が複数の選手を代理できないとする代理人交渉ルールについて、NPBの内部組織が公取委から独禁法違反(事業者団体の禁止行為)の恐れがあるとして警告を受けた。

 2000年オフに弁護士に限った代理人交渉制度が始まったとき、巨人軍オーナーだった渡邉恒雄氏は代理人を連れてくるような選手がいたら、「オレから(球団代表に)『あいつの給料をカットしろ』と言うよ。それがイヤなら自由契約だ。(巨人に)入りたいやつはいくらでもいるんだ」(毎日新聞)と強烈な反対意見を吐いたものだ。だが、彼が「球界の盟主」としてふんぞり返っている間に、メジャーリーグはビジネスの近代化を遂げ、大谷翔平と10年総額7億ドルの契約を実現して、球界関係者の度肝を抜いた。日本球界は大谷フィーバーの中で、メジャーリーグのビジネスに翻弄されているのだ。

これまでとは次元の異なる難関

 NPBのコミッショナーやオーナーたちがこのまま手をこまねいていれば、日本球界を経ずに米国に挑戦する選手が相次ぎ、日本野球もメキシコなどのように大リーグの実質的傘下へと飲み込まれていくだろう。ファンや識者を交え、新たな日本野球のビジョンを描いて、新たなドラフトや代理人交渉ルールを整える時期に来ているのだ。

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NPBの榊原定征コミッショナー

 20年前にも野球界の危機が叫ばれたことがある。そのとき、パ・リーグの実質赤字額は、日本ハムなど5球団だけで154億円に達し(西武は非公表)、渡邉氏を中心にした一リーグ論議が沸き起こった。この球界再編劇を経て、ファンや選手会の声をバックに、育成選手制度やセ・パ交流戦、クライマックスシリーズなど新たな知恵が生まれている。

 私が今回、文春文庫から刊行した『サラリーマン球団社長』は、渡邉氏の球界支配や球団の危機に抗って戦った阪神タイガースと広島カープの並外れた2人の球団サラリーマンの実話だが、今年以降の日本球界にはこれまでとは次元の異なる難関が待ち受けている。

 新聞界と球界を牛耳ってきた渡邉氏も亡くなった。新たな時代に、森井選手を驚かせるような「extraordinary」な知恵と、危機を見据えた構想が欲しいと思う。

最初から記事を読む 「お父さん、ナベツネさんと喧嘩したらあかん。あの人は怖い人や」球界再編騒動でナベツネに抗ったサラリーマンの熱い実話