植物同士のやりとりを、昆虫も盗み聞き
高校生 『香君』では、オアレ稲が出すにおいをバッタが“盗み聞き”して異世界から飛んでくる描写がありますよね。
髙林 そうですね。異世界から、というのが興味深い描写です。現実においても、同時に並行して存在している我々の世界と、それと重なる植物の世界。その異世界の間を行ったり来たりできるのが、例えば昆虫なんですね。『香君』の場合は、オアレ稲が本来伝えたい相手ではなく、バッタがそれを盗み聞きした。
高校生 においを盗み聞きするというのは、実際の自然界でも行われていることなんでしょうか?
髙林 それを示す研究論文はわりとあります。情報の出し手と受け手の両方が得をする相互作用が進化するというのが大前提なんだけれども、そのような相互作用が成立すると、その情報を盗み聞きすることで一方的に得をするという、搾取系の相互作用も進化してくるわけです。本来の発信者ではないのに相手を騙す「オレオレ詐欺」とかね、人間がやっていることは、植物と昆虫、あるいは昆虫間でも割と行われているんですよ。
高校生 人間チックな行為でいうと、さっきお話しされていたマツとカシの木の話は「贈与の関係」だなと思いました。今は相手からの見返りはもらわず、取りあえず死にそうやから助けると。その恩を覚えておいていつか助けてくれるというのは植物でもあるんでしょうか?
髙林 生物は基本的に「自分の遺伝子を残す」ことが進化の原動力なんです。植物もそうです。だから、自分と違う遺伝子セットを持つ異種の植物個体のために、自分を犠牲にして何かをするというのはちょっと考えにくい。ただ、見返りがあると仮定すれば、贈与の関係も起こり得ますよね。今の質問は、これまで注目されてこなかった非常に面白い視点だと思います。今後の植物間コミュニケーション研究において、とても重要なサジェスチョンになると思いますね。
上橋 今後、研究されていくと、これまで捉えきれていなかった筋道や、意外な意味が見えてくるのかもしれませんね。高校生のみなさん、すごいなあ。すごくいい質問をありがとうございます。
構成:岩嶋悠里
撮影:深野未季
