2019年2月、日本郵便とかんぽ生命の社長が内部向けに連名で出したメッセージには、「今年度のかんぽ営業については、たいへん厳しい状況が続いています。『やると決めた推進は、必ず達成する』という強い信念を持って、総力を結集し、営業スキルを存分に発揮していただきたい」と記されている。

郵政グループの中枢は、経営状況を元にはじき出した営業目標を設定し、中間組織である日本郵便の支社を通じて現場に過剰なノルマを課し続けた。その結果、モラルを失った社員は詐欺まがいの営業を繰り返す。一方で、良心の呵責に耐えられなかった社員は心を病み、休職、退職に追い込まれていたのだった。

「正念場です! 今が正念場です! 毎日が正念場です!」

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幹部からのこんな指示文書を目にした九州の渉外社員は力なくつぶやいた。

「この会社は完全に狂っている。無謀なインパール作戦のようだ」

宮崎 拓朗(みやざき・たくろう)
西日本新聞社北九州本社編集部デスク
1980年生まれ。福岡県福岡市出身。京都大学総合人間学部卒。2005年、西日本新聞社入社。長崎総局、社会部、東京支社報道部を経て、2018年に社会部遊軍に配属され日本郵政グループを巡る取材、報道を始める。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞、「全国郵便局長会による会社経費政治流用のスクープと関連報道」で第3回ジャーナリズムXアワードのZ賞、第3回調査報道大賞の優秀賞を受賞。
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