2007年に民営化した郵政グループにひずみが生じている。西日本新聞の宮崎拓朗記者は「保険営業では法外な営業目標が割り当てられ、高齢者を狙った詐欺まがいの営業がはびこっていた」という。生々しい社内会議の音声データなどから、その実態が明らかになった――。(第1回)

※本稿は、宮崎拓朗『ブラック郵便局』(新潮社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/winhorse ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

保険営業の厳しすぎるノルマ

「記録と記憶に残るラストスパート!」。2019年4月1日、四国の各郵便局にスポーツ紙を模した「四国スポーツ 号外」が配布された。

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作成したのは日本郵便四国支社。全国の支社の中で唯一、しかも6年連続で保険営業目標を突破したと伝え、「この伝統を次年度以降も続けていきましょう!」との支社長コメントも掲載されている。

目標を達成したのは年度最終日の3月31日。支社内が喜びに沸く中、ある男性局員は31日当日の契約データを見て驚いた。局員の家族とみられる人物が契約者になっている契約や、営業実績としてカウントされた後に入金もないまま失効している事例が次々に見つかったのだ。男性局員は「目標達成の実情は、自腹契約とカラ契約だったんです」と言った。

取材に応じた渉外社員たちは、口々にノルマの厳しさを訴えた。

渉外社員たちの1日は、毎朝の朝礼で、その日の目標をたたき込まれることから始まる。局内の壁に、社員ごとに「○日までにやります」と書いた宣言書が張り出され、達成できた社員の分だけが剥がされていくという郵便局もあった。

「まるで振り込め詐欺のアジトみたいだ」

ノルマが課されるのは、契約額だけではない。アポ電の数、顧客宅への訪問件数、見積書の作成枚数、そして契約件数まで、個人ごとに全ての数字が管理されている。「君は平均すると1日に○件の電話、○件訪問をして、○件しか契約が取れていない。この割合を考えれば、もっと電話と訪問を増やさないとダメだ」などと指示されるのだ。