関西地方の渉外社員の男性は、「1日5件はアポを入れろ」と指示されていた。アポイントが取れていなければ、一日中部屋にこもり電話をかけさせられる。多い日には50件。保険勧誘という本来の目的は告げず、「相続税対策のご提案があります」「お会いしてお伝えしたいことがあります」と表向きの訪問理由を説明するのだ。

「まるで振り込め詐欺のアジトみたいだ」

受話器を握りながら、男性は罪悪感に苦しんだ。

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契約を取らないと局に帰れない

アポが取れ、訪問した顧客からは「しょっちゅう郵便局から電話がかかってくる」「今日来られた郵便局員さんは、あなたで3人目ですよ」と言われることもあった。「一体、郵便局は何をしているんだろう」とむなしくなった。

この男性は「保険営業の現場で起きていることを伝えたい」と言い、面会して話を聞かせてくれていた。取材の途中でしばらく黙り込むと、意を決したように言った。

「僕は2回、お客さんを騙して加入させたことがあります」

このうち1度は、「不告知教唆」の不正だった。本来は持病があって保険に加入できない顧客に対し、「それぐらいの病状なら大丈夫ですよ」と話し、告知しないよう促した。顧客は病気が悪化して入院し、保険金を請求したものの、かんぽ生命は「告知義務違反」があったとして支払いを拒否した。顧客は「局員に告知しなくていいと言われた」と抗議したが、男性は社内の調査に「そんな説明はしていない」とうそをつき通したという。

男性は心を病み、心療内科に通っていた。

「騙して申し訳なかった。契約を取らないと、局に帰れなかったんです」

震える声で語った男性の目から涙があふれた。

「ここで土下座せえ」

ノルマが達成できない渉外社員に待っているのは、懲罰研修だった。

日本郵便近畿支社の研修に何度も参加させられた渉外社員が証言する。

研修会場で待っているのは、支社の金融渉外本部長や、「専門役」「指導役」と呼ばれる幹部たち。呼び出された渉外社員たちは、持参した反省文を手渡すのだが、幹部らは目を通すこともなく、「『頑張ります』っていう言葉なんかいらん。いつまでにナンボすんねん。ここで宣言しろ」と恫喝してくる。