うまくいかなかったのは、人生への向き合い方が違ったから

 結局、身分違いの恋愛はうまくいかないということかと言いたくなるが、そうではない。自分の人生への向き合い方がまるで違うふたりだからこそ、うまくいかなかったのではないか。

 アニーは、「いつか王子様が来て、自分をいまの生活から救ってくれる」と他力本願で生きてきたわけではない。泥臭く自分の力だけで生活してきたアニーは、つかんだ幸せを離さないために戦ってきた。一方イヴァンは、親の権力と金だけに頼り、自分では何の努力もせずに生きてきたため、親に捨てられないためには、戦うことをも放棄する。こんなふたりでは、たとえ両親に認められたとしても、早晩別れることになったはずだ。

 映画の最後は、アニーがイヴァンの見張り役・イゴール(ユーリー・ボリソフ)に自宅まで送られるシーンで終わる。アニーに同情し、寄り添う気持ちを見せるイゴールだが、アニーが同情に甘んじることはない。どんなに理不尽な目にあっても、最後は自分の足で立ち上がるしかないことを知っているからだろう。

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アニーに優しさを見せるイゴール(ユーリー・ボリソフ)

『マイ・フェア・レディ』にも『プリティ・ウーマン』にも(もっといえば「シンデレラ」にも)モヤモヤしていた筆者は、この『ANORA アノーラ』でようやく溜飲を下げた。

 人生は、誰かが変えてくれるわけでも、救ってくれるわけでもない。

 自分の人生を変えられるのは、自分でしかないのだ。

 傷ついてもくじけそうになっても、明日は自分の手できっと切り開ける。それが現代のシンデレラストーリーの「ハッピーエンド」なのかもしれない。

 

INFORMATION

ANORA アノーラ

2025年2月28日(金)全国ロードショー

監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー/出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン/2024年/アメリカ/139分/配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画/©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

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