マクロン大統領の決定は、フランスの金融市場を動揺させ、銀行株が大幅に売られた。銀行が大量に保有する国債の価格下落が、銀行の財務を悪化させるとの見方が強まったためだ。影響は日本にも飛び火し、6月17日に日本株が大幅に下落した要因の一つになった。

 ユーロが安くなるという構図は、リーマン・ショック後の欧州債務危機を彷彿させる。

「米国債に続き欧州債まで価格が急落することになれば、農林中金の危機は本格化する。リスク要因はできる限り取り除いておく必要がある。そこでさらなる外債売却に動いたのでしょう」(同前)

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「ノーチュー」大損失の“戦犯”は?

 巨額損失を招いた経緯の検証と責任の追及は免れないだろう。そもそも農林中金のポートフォリオは、どのように運営されているのかを、前出の農林中金関係者が解説する。

「まず市場運用部門がグローバルな金利の見通しなどのシナリオ分析を行います。そしてポートフォリオマネジメント会議で検討し、理事会に報告されて最終的な方針が決定します。このシナリオ分析は随時見直されて、ポートフォリオ運営に反映されることになっています」

理事長の後任を託された北林太郎氏は農林中金のCFOを務めている ©時事通信社

 奥氏が会見で語った、「想定を超えるような金利の引き上げだった」とは、このシナリオ分析に誤算が生じたことを意味する。

「金利の急上昇など、環境変化に応じた損失の度合いを検証する、ストレステストも行っていた。それほど異常な米国の利上げペースでした。もちろん奥理事長にトップとしての責任はありますが、難しい舵取りだったのは確かでしょう」(別の農林中金関係者)

 今回の巨額損失の最大の原因は、農林中金の巨大さにあるとの指摘もある。

 アメリカ・ウォール街で農林中金を知らない者はいない。巨額な米国株の買い手であり、「ノーチュー」の愛称で呼ばれる。「米国の証券トップが来日すると必ずと言っていいほど、いの一番に農林中金の理事長を訪ねる」(前出・市場関係者)。それほど市場での存在感は大きい。

※本記事の全文(約5500文字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(森岡英毅「〈崖っぷちの農林中金〉1兆5000億円巨額赤字でもトップ続投。次期理事長は一人に絞られた」)。
 

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