「私にできるのは、お気持ちに応えることだけ」

 とかく濃いキャラを演じて注目されがちな松本若菜だが、他方で、2022年のブレイクを挟み大河ドラマにも出演している。しかもその役は、2020年の『麒麟がくる』では徳川家康の生母・於大の方、2023年の『どうする家康』では家康の最期を看取ることを許された唯一の側室・阿茶局と、奇しくも家康の人生の始まりと終わりにかかわる女性だったというのが面白い。阿茶局は戦場にも出陣する男勝りの女性として描かれ、存在感を示した。

NHK大河『どうする家康』での松本若菜(松本若菜公式インスタグラムより)

 昨年は、冒頭にも書いたとおり2クール続けてゴールデンタイムの連続ドラマで主演を務めた。だが、当人は舞い上がることなく、それができたのも《“松本若菜で”と思い切った考えを実行して下さった制作陣のみなさまのお陰です。私にできるのは、精一杯そのお気持ちに応えることだけだと思っています》とあくまで謙虚だ。

主演ドラマ『西園寺さんは家事をしない』(2024年/TBS系)は「ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞」作品賞を獲得するなど高い評価を得た。右は共演の松村北斗、中央は子役の倉田瑛茉(ドラマ公式Xより)

 これは『週刊文春』前掲号の取材に彼女がメールで寄せた回答で、続けて《ブレイクとおっしゃって頂き有り難いのですが、実生活で大きな変化もありませんし、番宣でバラエティにお邪魔させていただいても『あっテレビで見た人だ!』と未だに思います》とも語っている。デビューから15年以上経っても芸能界に擦れることなく、新人っぽさを残しているのが微笑ましい。

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職人のようにコツコツと工夫を積み重ねてきた

 プライベートでは消しゴムハンコの制作が趣味で、SNSを通じてファンにもよく知られる。前出のフォトブックで彼女が扮していた大工は祖父と父の職業であり、祖母も手先が器用な人であったという。それだけに彼女も、欲しいものは自分でつくるのが当たり前という環境で育ち、子供の頃から手づくりが大好きだった。

自作の消しゴムハンコで自身の出演映画『室町無頼』をPR(松本若菜公式Xより)

 上京後も、部屋のカーテンを100円ショップで買った布をパッチワークしてつくったり、小物や棚をDIYでそろえたりしていたとか。消しゴムハンコもDIY精神が高じてつくり始め、趣味はさらに洋裁や刺繍、ワイヤーアートなどにも広がっている。ついにはマンションの一室に机や趣味に使う道具をまとめ、工作室にしたという(『週刊現代』2023年6月17日号)。

 考えてみると、松本は俳優の仕事でも、スタッフの要望に応えるべく、職人のようにコツコツと工夫を重ねてきた。あの演技の振り幅の大きさもそうした気質の産物と考えると、「松本劇場」というよりもむしろ「松本工房」と呼びたくなる。

松本若菜公式Xより

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