本業で収入が得られない以上、バイトを続けるしかなく、勤務先からは正社員にならないかと何度も誘われた。親からも鳥取に帰ってきたらと言われ、心が揺れ動くなか、それでもこのまま手ぶらで帰郷するのもいやで、芸能界を辞めようとまでは思わなかったようだ。
「これ一本でやっていこう」転機となった作品
そのうちに徐々に運が回っていく。2015年には時代劇映画『駆込み女と駆出し男』で、夫との離縁を求めて鎌倉の縁切寺へ駆け込む女たちの一人を演じた。舌を焼かれて口がきけないという壮絶な役どころで、監督の原田眞人からは厳しい指導を受ける。あまりの厳しさに挫折しかけたほどだが、完成した作品を見ると「やっぱりすごいな」と素直に思い、このときの経験のおかげで多少のことでは動じなくなったという(『週刊大衆』2017年2月27日号)。
さらにデビュー10年となる2017年に公開された映画『愚行録』では、殺人事件の被害者一家の妻役に起用される。劇中では妻について学生時代を中心に描かれたが、当時すでに30代だった彼女からすれば実年齢より10歳近く下の役とあってプレッシャーを感じながらも、若さを表現できるよう色々と考えて演じたという。
その演技が高く評価され、ヨコハマ映画祭の助演女優賞を受賞、大きな転機となった。のちに彼女は、《正直、賞とか自分に縁があるなんて思っていなくて、知らせを聞いた時は驚きました。でも今の私が認められ、私の芝居が評価されて賞をいただけたんだと思ったら、さらに腹が決まった。やっぱりこれ一本でいこう、って思いました》と語っている(『anan』2022年7月13日号)。
38歳でドラマ初主演を務める
そして38歳を迎えた2022年には前出の『ミステリと言う勿れ』『やんごとなき一族』のほか、Netflix配信の『金魚妻』、初の主演ドラマ『復讐の未亡人』、また映画『マリッジカウンセラー』(愛知県で先行公開のあと翌年に全国公開)と出演作があいつぎ、ブレイクするにいたる。『金魚妻』や『復讐の未亡人』では濡れ場もいとわない体当たりの演技も注目された。
『ミステリと言う勿れ』の刑事役は、『金魚妻』の撮影現場で監督の松山博昭が雑談していた際、彼女から刑事役はまだ経験がないと聞き出し、「きっとクールで男勝りな刑事役がハマると思います」と返したことをきっかけに決まったという(『週刊文春』2024年11月14日号)。そんなふうに仕事が別の仕事へとつながっていくことも増えた。