「もうこんな酷い話は読みたくない」「でも読むのがやめられない」。悲鳴にも似たラブコールを受け続けて20年。伊岡瞬がメモリアルイヤーに放つノンストップサスペンス。

『追跡』伊岡 瞬(文藝春秋)

 今年でデビュー二十周年を迎える伊岡瞬さんの最新作は、謎が謎を呼ぶノンストップサスペンスだ。

「作家生活で初めてのロードノベルになりました。やるからには思い切ってやるのが私のやり方なので、とにかく突っ走ってスピード感を大事にしていこうと。その結果自分史上最もエンタテインメントに振り切った小説ができ上がりました」

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 閑静な住宅街で、一軒家が焼失。焼け跡からは、家の持ち主の男性とその息子夫婦と見られる遺体が発見された。警察は捜査に乗り出すが、実はこの“家族”が赤の他人だったことが明らかになる。そして、現場からは家主の“孫”と見られる小学校高学年の男の子が姿を消していた――。

「大人の男女と子供が歩いていれば、ほとんどの人は『ああ親子連れだな』と想像するでしょう。でも実際は不倫相手との疑似家族ごっこかもしれないし、誘拐された子供とその犯人たち、という可能性だってある。そんなふうに、私たちは多くのことを想像や憶測で決めつけているのではないか。その先入観を取り除いた先にあるものを描きたいと考えています」

 鍵を握るのは火災現場から消えた子供。非合法組織『I』のメンバーである樋口、警察、政界フィクサー因幡とその政敵新発田など、各勢力が入り乱れて一人の子供の争奪戦の様相を呈する。タイトル通り「追跡」が繰り広げられるが、登場人物たちは曲者ばかりだ。それが読者の心に楔を打つ伊岡作品の魅力だが、その創作の秘密とは?