貯金で理容室を開業
「理容師との収入のギャップはありましたが、『それはそれ』という感覚だったので、稼いだことで金銭感覚が狂うようなことはありませんでした。
仕事をする上で特に大きなトラブルはなかったのですが、膀胱炎で血尿が出たことがありました。マットプレイでは、股の間にお客様の腕や足を挟んで滑らせる『たわし洗い』など、様々な技があります。常に姿勢を変えながら、そしてお客様に密着しながらサービスをおこなうので、色々な部分が痛くなります。膝が痛くなったり、乳首が擦り切れることもありました。病院に行ってから出勤することもありましたが、私は週1回だけの勤務だったので、次回の出勤までに治ってしまうことが大半でした」
同業の女性とのつながりは、全くなかった。店舗型のヘルスでは、在籍女性は各部屋に一人ずつ待機しているので、横のつながりが生まれるようなことはなかった。
世間体や家族への身バレを防ぐために、自らSNSのアカウントを作って発信するようなこともしなかった。集客のための宣伝は、店のホームページ内に掲載されている写メ日記だけで十分だった。
ヘルスの仕事をしていることは、一人だけ話を聞いてもらったこともあったが、ほとんど誰にも話したことはない。
「誰かに話を聞いてほしい、という気持ちもありましたが、言えないですよね……」
そんなとき、亡くなった親族が所有していた物件を利用して、理容室を開業できることになった。マットヘルスの仕事で貯めたお金を頭金にして、独立して開業。そのタイミングで、店もやめた。
「それからは現在に至るまで、理容業一本の生活です。風俗の世界には、特に未練はありません。お店のスタッフも、『期間限定で働いてほしい』『ずっとはやってほしくない』と言っていたので」
大きなトラブルもなく、家族や知り合いにバレることもなく、生活費や開業のための資金をきちんと稼いだ上で、スパッとやめることができた。
性風俗の仕事から完全に離れて、10年以上が経った。現在は理容業に専念しているが、ネットで性に関する情報をオープンに発信しているユーチューバーなどを見ると、自分も何かの形で、社会に向けて発信したい、と感じるときもある。