20代の頃に2年間だけ、風俗の世界で働いていたある女性。結婚による引退から8年後、子供を育てているなかで風俗の仕事を再開。いったい彼女に何があったのか? 夜の世界で孤立・困窮している女性たちための支援活動を行う坂爪真吾氏の新刊『風俗嬢のその後』(筑摩書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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かつて風俗で2度働いていた42歳女性
理容室を個人経営している緑さん(仮名・42歳)は、仕事の合間に、「家族にバレるとまずいので」という理由で、公園の駐車場に停めた自家用車の中から、Zoomで取材に応じてくださった。
緑さんが性風俗で働いた時期は、21歳から23歳までの2年間と、31歳から33歳までの2年間、合計2回。18歳から理容師として住み込み修行を始めたが、毎月の給料は8万円。当時交際していた男性がお金を使う人で、経済的に余裕が欲しかったこともあり、彼氏には内緒で働き始めた。
緑さんが住んでいた地域は、風俗街があることもあり、コンビニや書店など、至るところに性風俗の求人情報誌が置いてあった。ローカルの情報誌に掲載されていた求人広告を見て、なんとなく「ここでいいや」と思って、ヘルスの店を選んだ。本番はないほうがいいと思っていたので、ソープは避けた。
最初の客のことは、あまり覚えていない。スタッフが講習をしてくれたことは覚えているが、DVDを一通り見せられて「こうしてくださいね」と言われただけ。具体的な指導もなく、「出勤したら、適当に衣装を着て、適当に接客して」という感じだった。
客の質もあまり良くなかった。若い客も中年の客も本番を要求してくることが多く、それを断ると態度が変わったり、無理やり挿れようとしてくる人もいた。