かつて風俗と理容師の仕事を両立させていた42歳の女性経営者――どちらの仕事でも結果を残した彼女が語る「仕事の本質」とは? 夜の世界で孤立・困窮している女性たちための支援活動を行う坂爪真吾氏の新刊『風俗嬢のその後』(筑摩書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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男性客の悩みはさまざま
家ではいつも通りお母さん業をやって、いつもの仕事に行く体で、いつもの時間に家を出て、気持ちを切り替えて出勤。そして、いつもと同じ時間に帰ってくる、というルーティンをうまくこなした。
「復帰後は、それまでの経験もあって、お客様の人生上の苦労など、悩みに答えられるようになりました。セックスに関することもだいぶ知識がついていたので、慈愛の心で接することができるようになったと思います。
男性が風俗を利用する動機について、二十代のお客様は主に性欲の発散ですが、四十代から五十代のお客様は、奥様とのセックスレスなど、家庭の悩みがあったり、仕事で頑張っていることへの癒やしが欲しい、という気持ちがある。その上の年代になると、『勃たない』などの身体の変化や心の寂しさを訴える方が多いです。どの年代も、風俗を利用する一番の理由は『寂しさ』なのではないでしょうか。
接客中は、笑顔と優しさ、気遣いも含めて、『話をよく聞いてあげる』ことを意識していました。お客様は、身内にも友だちにも言えないような思いを打ち明けてくださります。
誰かに背中を押してもらいたい、優しさが欲しい、理解して欲しい……など、性欲の発散だけでなく、色々な感情が交差する不思議な場所、それが風俗です。
健康上の問題や恋愛の悩みに対して『こうしたほうがいいんじゃないですか』とアドバイスすることもありましたが、ご本人の気持ちに寄り添ってあげるのが一番だと思います」
マットヘルスの仕事を再開してから、客もつくようになり、収入は安定した。稼いだお金は、家計をうまくやりくりして、1円も使わずに、全て金庫にしまっておいた。