しかも会社に入ったら、想像よりも仕事はきついし、思い描いていたような活躍はできないしで、人生これでいいんだっけ……と思うようになって。大学四年の時の後悔もあり、何か書いてみようと小説教室を探し、山村正夫記念小説講座(現・森村誠一・山村正夫記念小説講座)に通い始めました。
そこから1年半かけてお仕事小説を書き上げ、集英社の小説すばる新人賞に送ったら、最後の16作品に残ったようで、編集部からアドバイスをいただきました。その後もいくつかのジャンルを書きましたが、やっぱり仕事の話がいちばん面白がってもらえる感覚がありました。でもお仕事小説を対象にした新人賞ってあんまり無いんですよね。そんな時に森バジルさんの松本清張賞受賞作『ノウイットオール』を面白く読みました。いろんなジャンルの小説が混ざった連作短篇集だったので、懐の深い松本清張賞なら大丈夫じゃないかと思って応募しました。
――冒頭でもお話しした通り、本作はその松本清張賞で次点だったそうですが、刊行に至ったのはどういう経緯があったのですか。
城戸川 選考会の日、日本文学振興会の方から落選の連絡をいただいて凹んでいたら、その5分後くらいに当時の別冊文藝春秋の編集長から電話がかかってきたんです。「今回の作品は他の賞に応募する予定ですか」と訊かれ「特に考えていないです」と言ったら、「よかったよかった」って(笑)。数日後にお会いすることになり、「この小説は今、世に出すべきです」と言っていただきました。目の前にいる初めて会った方たちが、高宮麻綾の話で盛り上がっている光景を目にして、すごく嬉しかったし、書いてよかったと思いました。
――2作目はどのような話を考えているのですか。
城戸川 編集部からご提案をいただいて、続篇を書くことになりました。ひとつ山を乗り越えたら更に大きな山が待ち受けているのがサラリーマンの性なので(笑)、高宮には今後もいろいろと試練を与えて、汗かきながら頑張ってもらおうと思います。
城戸川りょう(きどかわ・りょう)
1992年山形県生まれ。山形県立山形東高校卒業。東京大学経済学部卒業。商社勤務。2025年3月『高宮麻綾の引継書』で作家デビュー。