――親会社と子会社の関係や、高宮が『メーグル』を提案した社内のビジネスコンテスト、投資審査会など、会社組織の内実も面白かったです。

城戸川 社内ビジコンという舞台は、実体験が元になっています。昔、仲の良い先輩が最終選考まで残ったときに、毎晩遅くまでプレゼンの準備を手伝ったことがありました。それをきっかけに、まだこの世に存在しない新しい事業を立ち上げる人って格好いいなと思って、その後、私自身も新規事業開発の仕事に挑戦しました。ゼロから構想を立案して、実現させていく過程で、自分の頭の中にあった事業案がどんどん形になって前に進んでいく感覚や、周りの人も一緒になって盛り上がっていく様子を目の当たりにしました。そのときに抱いた様々な感情が、作品の土台になっています。

 親会社と子会社の関係性については、グループ会社の方と1年間仕事に取り組んだ経験がベースにあります。その方とは今も数か月おきに飲みに行って近況を報告し合うくらい、仕事を通じて信頼関係を築くことができました。異なる立場の人と一緒に仕事に取り組む時に大事なのは、社内政治や忖度ではなく、「この仕事は絶対に面白い。だから実現させたい」という強い気持ちを皆が持つことだと学びました。

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――高宮はかなり強気で強引な女性ですが、彼女が言う、仕事がうまくいった時の「たまらない」という感覚、すごく分かります。どういう人物をイメージしていましたか。

城戸川 私と、私が入社した時に仕事を教えてくれた先輩と、先述のグループ会社で一緒に仕事をした方が混ざっています。高宮の「全員ぶっ飛ばしてやる」という気の強い部分は先輩で、しなやかでしたたかな部分はグループ会社の人。それと、私自身が落ち込んでいる時期に周囲を羨んだり妬んだりしたこと、でもこのままでは終われないと思って新規事業の提案に賭けた時の感情が色濃く反映されています。

――モデルとなった先輩も、高宮のように苛立つと舌打ちしたり、貧乏ゆすりをしていたんですか(笑)。

城戸川 当時はすごかったです(笑)。でも出会ったときから非常に優秀な人で、今でも活躍されていて尊敬しています。読んだ方からは、「一緒に働きたくはないけれど、こういう奴が一人くらいいたほうが楽しいかもな」みたいな感想も多いです。一方で、「麻綾は自分だと思った」と言ってくれる方も何人かいました。