――後輩の天恵や、親会社のクールな風間、出向先の実直な角田など、魅力的な人がたくさん登場します。人物がちゃんと描き分けられていて、みんな魅力的でした。
城戸川 高宮以外の登場人物にはモデルがいないんです。誰一人テンプレっぽくしたくないとは思っていました。働き方についてこういう意見を持つ人がいるなら、反対にこういう人も当然いるだろう、などと考えていったので、登場人物の配置では苦労しなかったです。
――それにしても一難去ってまた一難という感じで、エンタメとしてのテンポと緩急が素晴らしいですね。高宮が異動したり、出向したりと状況もどんどん変わっていく。
城戸川 どうしたら面白くなるか、読者がページを捲りたくなるかはかなり意識しました。通っていた小説教室で講師の方に、何度も「主人公に楽をさせるな。汗をかかせろ」と言われてきたんです。それで、主人公にとって今この瞬間、一番起きてほしくないことは何かを考えて、無慈悲に取り入れていきました。最初の段階で解決策まで思いつくわけではないので、とりあえず主人公に汗をかかせた後に、自分がもっと汗をかくことになりましたが(笑)。
第5章は高宮が本作で一番汗をかく重要な部分ですが、実は最初は書かない予定だったんです。松本清張賞の締切1週間前に海外出張が入って、出国間際に「もっと面白くなるだろ」と考えていたら第5章の話がぱあっと浮かんで、飛行機の中で原稿用紙80枚を一気に書き上げました。あの出張がなかったら、たぶん自分は今ここにいないです。
――高宮が最後に下す決断がいいですよね。
城戸川 いいですよね!(笑)。主人公が何かを通して成長する小説が好きなので、これもそういう話にしたいと思っていました。
――小説を書き始めたのはいつ頃ですか。
城戸川 初めて書いたのは小学校6年生の時ですが、本腰を入れたのは社会人二年目の時、2016年の終わりくらいです。
もともと小説を読むのは好きだったのですが、大学4年の終わりに、大学同期の辻堂ゆめさんが『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞でデビューされたんです。さらに辻堂さんは東大の総長賞も獲ったので、とても印象に残っています。自分は何とか就活を終えて満足していたけれど、こういう生き方もあったのかと愕然としました。その時、なんで学生時代に小説を書かなかったんだろうととても後悔したのを覚えています。