観客からの温かい笑いと拍手
2月22日、『俳優 亀岡拓次』や『いとみち』の横浜聡子監督の新作『海辺へ行く道』が、ベルリン国際映画祭「ジェネレーションKplus」部門で審査員特別表彰(スペシャルメンション)を受けた。
壇上から横浜監督は、「ユーモアは人々の断絶や絶望を時に救ってくれます。今回、この映画にちりばめられたユーモアに、たくさんの笑いが起こっていて、私はその瞬間が一番幸せでした。ベルリンの皆さんの温かい笑いと拍手を胸に、私は明日からも生きていこうと思います」と、会場に向かって感謝を述べた。
世界三大映画祭は基本的に18歳以上の大人向けだが、ベルリンは1978年にいち早く子どもの観客の重要性を見出し、若者に門戸を開いた。近年では、米アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートのアイルランド映画『コット、はじまりの夏』(2022年)が本部門でワールド・プレミアされるなど、秀作を数多く発掘。若い主人公が世界を眺める視点を奨励し、子どもとかつて子どもだった大人の双方が楽しめる作品を紹介する。
原作は三好銀の同名漫画シリーズ
『海辺へ行く道』のワールド・プレミア上映はこの5日前の2月17日、国立芸術センター「世界文化の家」で開催された。地下鉄の駅からやや遠く、降り積もる雪で足場も悪いなか、映画のプロや、冬休みを満喫する地元の家族連れが押し寄せた。
『海辺へ行く道』は、三好銀の同名漫画シリーズが原作。原田琥之佑(こうのすけ)演じる主人公の奏介が住むのは、アーティストの移住を支援する海辺の町だ。奏介自身も中学の美術部に所属し創作活動に励んでいる。ただし、彼を追いかけるドラマというよりは、島に来るもの、留まるもの、去る者が交錯する群像劇となっている。眩い海に浮かぶ風光明媚な島が舞台の横浜版『ショート・カッツ』(レイモンド・カーヴァー原作、ロバート・アルトマン監督)である。
映画は若い観客が楽しめるよう、ドイツ語の同時通訳付き上映。原作にも描かれた“歯を見せない”のが掟の盆踊り風「静か踊り」や、ツバが異様に長いサンバイザーの登場など、穏やかな不条理ユーモアの数々に笑いが起きていた。