国後から上陸するロシア軍を迎撃する「決戦地」

──『小隊』では、ロシア軍は新千歳空港をはじめ重要施設をミサイル攻撃した後、道北と道東の二方面から北海道に侵攻するという設定です。安達が属する第27戦闘団は釧路を中心に防御線を固め、国後島から標津に上陸したロシア軍と対峙します。上陸から1カ月後、いよいよ釧路市郊外で両軍が激突します。

柏葉 実際、現地に取材に行ったんですが、作品の舞台となった釧路町やその周辺はゆるやかな丘陵と畑が続くのどかな場所なんです。ここが戦場になるなんて、想像すらつかない……。でも、一旦平和が崩れると塹壕があちこちに掘られ、国道には迎撃の地雷が埋められるのかと思うと、ぞっとしました。

──小説をマンガとして構成するうえで、どの点に苦労されましたか?

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柏葉 専門用語や部隊の説明をどこではさむかという点に、いちばん悩みました。原作はかなり専門的で、ミリタリーに詳しくない一般層にはイメージしづらいところも多かった。どうやって物語の進行や緊迫感を邪魔しないように、解説や状況説明を入れ込むかを考えました。

 例えば、主人公が指揮する小隊がいる陣地の規模はどれくらいなのか? さらには作中には出てこない中隊や大隊などは、実際の戦場ではどう展開してるのか? すべてを説明するとテンポや緊迫感を損ねてしまうので、物語を読み進めるうえで最小限必要な、要になる箇所ははずさないように注意しました。

──作画をするにあたって、苦労された点はありますか?

柏葉 隊員が身に着けている装備や無線の種類などは年代によって違っていたりするので、本当に適正なのかどうかチェックが大変でした。あと、難しかったのが自衛隊員や車両などの「偽装」ですね。偽装とは敵に発見されないように装備に草木を使ってカモフラージュすることなのですが、リアルに描こうと思うと、森などの背景と同一化してしまって何を描いてるかわからなくなってしまう。ほどほどリアルで、かつ見やすい画面を作るのに苦労しました。

 

──ウクライナ戦争勃発から3年が経ちました。ロシアによる侵攻について、道民としてのお気持ちをお聞かせください。

柏葉 第二次世界大戦時、北海道における主な戦いの舞台となった占守島(しゅむしゅとう)では日本軍、ソ連軍ともに多くの血が流れた歴史があります。しかし、海をはさんだその地に立つことができないせいか、北海道がかつて戦場だったという実感はありません。

 今も未解決の北方領土問題、そしてロシアの政情をみると、北海道への侵攻がないと断言することはできないと思います。となると、やはり自衛隊の在り方や自国の防衛について、もう一歩進んだ議論が必要な時代になっているのかなと感じています。

かしわば・ひろき

1975年北海道生まれ。2007年、デビュー。著書に『映像ディレクター越智は見た 世界怪奇録』(原作・越智龍太)など。

小隊

砂川 文次 ,柏葉 比呂樹

文藝春秋

2025年3月21日 発売