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AIとARの拡張現実時代に「私たちはどう生きるか?」

上田岳弘×暦本純一「AIとAR時代の文学」(前編)

ロボットにはない社会的な存在感をどう出すか

上田 どうしてこういうシステムを開発しようと思われたんですか。

暦本 離れた場所にいる人を、あたかも今ここにいるかのように見せる技術の研究開発が近年進んでいます。これを「遠隔の」を意味する接頭辞の「テレ」と、「存在」を意味する「プレゼンス」を組み合わせて、「テレプレゼンス」と呼んでいます。多くの研究はこれまで遠隔操作ロボットを使って、テレプレゼンスを実現していました。ところが、遠隔地の人の意志に従って動いているとしても、見た目がロボットだと、どうしても違和感が生まれるし能力にも制限がある。そこで、われわれは遠方にいる人に代理役を担ってもらえば、ある場所から別の場所へ、身体のみならず社会的な存在感を移すことができるのではないかと考えたんです。

©iStock.com

上田 周囲にいる人の反応も全然違うんでしょうね。

暦本 違いますね。こんなシンプルなしかけですが、画面上に女の子を出して、「ハグして」と男子学生に呼びかけると、代理人が男でも、ウッと体が固まります。代理人全体を女の子だと認識してしまう何かがある。

顔は人格の「ツボ」

上田 顔が体に占める面積は小さいですが、そこに人格の情報が密集しているんですね。

暦本 顔が人格の「ツボ」、つまり、そこに鍼を打つと「その人である」と信じてしまうツボのような役割を果たしているんでしょう。手、腕、胴体、足などがほどよい場所に配置されていれば、本人の体を完全に再現せずとも、人格や存在感を代理人に移すことができる。カメレオンマスクを一対一だけでなく、一対多、あるいは多対多で人格を移すツールとして使うことも考えられます。画面をひゅっとスワイプすると別の顔が現れて、また別のカメレオンマスクをつけた代理人と話しはじめるといった具合です。

©石川啓次/文藝春秋

上田 どこまでが自己で、どこからが他者か。その境界を技術で編集できるということですね。

暦本 できますね。

※後編 「レディー・ガガを乗りこなす」AI×ARの“幽体離脱”時代とは何か? http://bunshun.jp/articles/-/7752 につづく

構成=緑慎也

文學界2018年7月号

文藝春秋
2018年6月7日 発売

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うえだ・たかひろ/1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年「私の恋人」で三島由紀夫賞を受賞。2016年「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』がある。

れきもと・じゅんいち/1961年東京都生まれ。理学博士。東京工業大学大学院理工学研究科情報科学科修士課程修了。日本電気、カナダ・アルバータ大学などを経て、現在、東京大学大学院情報学環教授兼ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長。