「地面よりもっと低いところから物事を見る」取材姿勢
丸山 アフリカの旅では何をしたんですか?
山田 植林プロジェクト形成調査という名目で助成金を引き出して、ナイル源流から陸路で、ルワンダ、ケニア、ナイロビ、エチオピア、スーダンまで一緒に川の流域をめぐりましたね。ちょうどルワンダで3年前にひどい内戦があった頃でした。
高野 97年にナイル川流域を4か月めぐって、地元の環境NGOをサポートしました。僕は環境問題の知識がまったくなかったから、隊長に一から教えてもらいましたね。
一緒に旅をするなかで、隊長からいかに川が面白いかという話を何度も聞きました。とくに琴線に触れたのは、「川はその地の一番低いところを流れる」という話。一番低いところから、その土地を見るべきだと。
例えば、アフリカでは、外国人が村にやってくるとき、ランドクルーザーみたいな大型車に乗って道路から来るわけです。しかも道路は一段高くなっているから、地元の人からすると「上から下りてくる」感じ。脅威ですよね。でも、山田隊長は、一番下を舟でいく。川を舟で下るってスピードが遅いし逃げ場がないから一番セキュリティ的にダメなんですよ。でもこれが一番地元の人に警戒されないんですね。
一番目線の低い所から丸腰で手を上げて入っていくと、取材でも見えるものがまるで違う。「地を這うような」取材でなくて、「地面よりもっと低いところから物事を見る」――そんな隊長の生き方に触れて、迂闊にも痺れてしまったんだよね。
丸山 迂闊にも!?
高野 そう、迂闊にも。そして旅の最後に、今度は絶対にナイル川を一緒に下ろうと誓ったんです。
山田 4か月タダ働きさせた代わりに、ナイル川を下れるようになって行くときは、「席を一つ高野のために空けとくからな」って約束しました。でも、20年たってもナイル川は一向に下れる状況にならない。で、今から8年ほど前に、「いい所見つけた、行きましょう」と高野に言われて行ったのが、今回のイラク湿地帯=アフワールだったわけです。
失敗を書かせたら、高野秀行の右に出るものはない!?
丸山 すごい絆ですね! 舟旅の専門家から見て、イラクの伝統的な舟タラーデは乗ってみてどうでした?
山田 どうもこうも、本をよく読まれると分かるんですが、僕らタラーデには2時間しか乗ってないのよ! やっとの思いでつくって川に出せた舟をこげたのはたった2時間なのに、こんなにも壮大な一冊になって。高野はたいしたもんだと思ったね。
高野 でもけっこう舟の操作性よかったじゃないですか。安定性もいいし、スピードもそこそこ出て。
山田 多分、長期の旅もできる舟だね。本当にハリボテみたいなつくり方で、最後はコールタールで固めるからすごく重たいんだけど、意外にも安定性がよかった。
丸山 今回、全3回の旅をされてますが、一度、コロナ禍のさなかで急遽行けなくなったときに高野さんにお会いしたら「イラクに舟置いてきたから取りに行かなきゃー」って言ってましたよね。
「いやーイラクには湿地帯があって、水滸伝なんだよね」って言われてちんぷんかんぷん。でもそれが本として見事にまとまっていたので、すごく嬉しかったですね。
高野 ことの顛末は本書をお読みいただくとして、アフワールで川下りをするはずがとんだ迷走になり……「失敗を書かせたら、高野秀行の右に出るものはない」って、誰かが謎の名言を伝えてくれましたよ(笑)。
